土木研究所を知る

  • HOME
  • 研究成果・技術情報

VIII 環境に配慮したダムの効率的な建設・再開発技術に関する研究

→個別課題の成果要旨

研究期間:平成13年度~17年度
プロジェクトリーダー:水工研究グループ長 高須修二
研究担当グループ:技術推進本部(構造物マネジメント)、材料地盤研究グループ(地質)、水工研究グループ(ダム構造物、ダム水理)

1. 研究の必要性
 
環境保全の重要性に対する認識の高まりとともに、社会資本の整備にあたって、事業の効率を高めると同時に、自然環境や地球環境に及ぼす影響を極力回避、軽減することが求められている。このため、これまで整備されてきた社会資本ストックを有効に活用する方策を立案するとともに、新規の社会資本整備においても環境に及ぼす影響を極力軽減できるような技術の開発が求められている。本重点プロジェクト研究ではダム事業を対象として、上記の要請を踏まえて、既設ダムの有効活用技術の開発、自然環境へ及ぼす影響を極力回避できるような新規ダムの建設技術を開発する。

2. 研究の範囲と達成目標
 
本重点プロジェクト研究では、既設ダム、貯水池の有効活用を図るため、既設ダムの嵩上げ設計手法、放流設備の機能増強技術の開発を行う。また、新規のダム建設にあたっては、堤体材料を採取する原石山の改変を最小限に抑えるために、規格外骨材の有効利用方法の開発、およびダムサイトの掘削法面を最小化するために、ダム基礎岩盤の力学設計の高度化技術、貯水池法面の斜面対策を最小化するために、貯水池斜面の安定性評価技術の提案を行う。あわせて、自然環境への影響を軽減するため、従来よりも柔軟にダムサイトが選定できるように、ダム基礎岩盤の止水設計の高度化技術を提案する。これらの達成目標を整理すると以下のとおりである。
    (1) ダムの嵩上げ設計手法の開発
    (2) ダムの放流設備増強技術の開発
    (3) 規格外骨材の品質評価および有効利用方法の開発
    (4) 複雑な地質条件に対応した基礎岩盤、貯水池斜面の評価と力学設計技術の開発
    (5) 岩盤性状に応じた透水性評価と止水設計技術の開発

3. 個別課題の構成
 
本重点研究プロジェクトでは、上記の目標を達成するため、以下に示す研究課題を設定した。
    (1) コンクリートダムの再開発技術に関する調査(平成13~17年度)
    (2) フィルダムの嵩上げ技術に関する調査(平成13~17年度)
    (3) ダム機能強化のための放流設備設計手法に関する調査(平成12~15年度)
    (4) トンネル内放流設備の水理設計手法に関する調査(平成16~17年度)
    (5) ダムコンクリートにおけるスラッジの有効利用に関する調査(平成12~14年度)
    (6) 濁沸石含有岩石のダムコンクリート骨材としての有効利用に関する調査(平成12~15年度)
    (7) 低品質細骨材の有効利用に関する調査(平成15~17年度)
    (8) 複雑な地質条件のダム基礎岩盤の力学的設計の合理化に関する調査(平成14~17年度)
    (9) ダム基礎等におけるゆるみ岩盤の評価に関する調査(平成11~17年度)
    (10) ダム基礎グラウチングの合理的計画設計法に関する調査(平成13~17年度)
このうち、平成13年度は(1)、(2)、(3)、(5)、(6)、(9)、(10)の7課題を実施している。

4. 研究の成果
 
本重点プロジェクト研究の個別課題の成果は、以下の個別論文に示すとおりである。なお、「2. 研究の範囲と達成目標」に示した達成目標に関して、これまでに実施してきた研究と今後の課題について要約すると以下のとおりである。

(1) ダムの嵩上げ設計手法の開発
 
「コンクリートダムの再開発技術に関する調査」では、嵩上げダムの弾性体応力解析を実施し、施工時の貯水位、基礎岩盤の変形性が堤体応力に与える影響について整理した。今後は、温度応力解析や動的解析も含めてさらに詳細な検討を進め、コンクリートダムの嵩上げ設計方法の提案へ結びつける予定である。
 また、「フィルダムの嵩上げ技術に関する調査」では、嵩上げ事例の分析のほか、モデルダムに対する浸透流解析、すべり安定解析を行い、旧堤体の透水性が嵩上げダムの安定性に及ぼす影響を整理した。今後は、既設堤体と基礎地盤の物性調査、水みち探査法として電気探査の適用性について検討を進めるとともに、動的解析によって耐震性の検討を行い、既設フィルダム堤体および基礎地盤の性状に応じたフィルダムの嵩上げ設計方法の提案へ結びつける予定である。

(2) ダムの放流設備増強技術の開発
 
「ダム機能強化のための放流設備設計手法に関する調査」において、既設ダムに新たな放流設備を設置する手法として湾曲エビ継ぎ管の水理模型実験を行い、管路内の水理特性、側方から空中放流によって減勢する場合の減勢特性をとりまとめた。今後は、さらに実験を追加するとともに、現地観測および数値シミュレーションによる検討を加え、エビ継ぎ管路流の水理設計手法、空中放流減勢工の水理設計手法の開発に結びつける予定である。

(3) 規格外骨材の品質評価および有効利用方法の開発
 
「ダムコンクリートにおけるスラッジの有効利用に関する調査」では、RCD、ELCM用コンクリート、外部コンクリート、高流動コンクリートの4種類のモルタルを用いて、単位水量一定のもとで微粒分率を変化させたときの性状調査を行った。この結果、ワーカビリティーは低下するものの、コンクリート組織が緻密になることによって、強度は増加し、乾燥収縮や中性化速度は低減することが分かった。今後は、ワーカビリティーの改善を図るため、混和剤の使用について検討を加え、スラッジ混入コンクリートの配合設計方法の提案に結びつける予定である。
 「濁沸石含有岩石のダムコンクリート骨材としての有効利用に関する調査」では、濁沸石によるモルタルの劣化原因について検討した。その結果、劣化モルタル中の濁沸石の化学組成は濁沸石の理想的な化学組成と変わりなく、また、濁沸石周辺に異常膨張を起こすような物質、水和物の生成は認められないことから、濁沸石によるモルタルの劣化の原因は、化学反応ではなく、物理的な作用であると推定された。今後は、劣化モルタルの化学分析を追加するとともに、濁沸石-レオンハルダイト転移に伴って発生する膨張圧についても検討し、濁沸石によるコンクリートの劣化機構の解明および濁沸石含有岩石の有効利用法の提案へ結びつける予定である。

(4) 複雑な地質条件に対応した基礎岩盤、貯水池斜面の評価と力学設計技術の開発
 
「ダム基礎等におけるゆるみ岩盤の評価に関する調査」において、ゆるみ分布の的確な把握を目的として「地中風速測定」、ゆるみ領域のマイクロゾーニングと変形性の把握を目的として「高精度傾斜変動測定」の2つの新しい調査方法を開発した。また、これらの手法を現地に適用した結果、十分な精度でゆるみ領域を把握することができた。今後は、これらの調査機器を高度化し、測定の安定性を向上させるとともに、解析方法や試験値の解釈方法を提案する予定である。さらに、これらの成果を踏まえて、ゆるみ岩盤の発生機構の解明およびゆるみ岩盤に対する地質調査方法の提案に結びつける予定である。

(5) 岩盤性状に応じた透水性評価と止水設計技術の開発
 
「ダム基礎グラウチングの合理的計画設計法に関する調査」において、三次元模型を用いたグラウト注入実験を行い、注入圧力や配合の変化によるグラウトの注入特性の変化を整理した。また、浸透流解析によって、コンソリデーショングラウチング、ブランケットグラウチングの施工範囲、改良目標値が浸透流量に及ぼす影響をとりまとめた。今後は、原位置試験も含めて引き続き実験的検討を行うとともに、解析的な検討により基礎岩盤の改良と浸透状況の関係を定量的に示し、ダム基礎岩盤の透水性状とその分布特性を考慮したグラウチングの計画・設計方法の提案および透水性の改良度の空間分布を考慮したグラウチングの効果判定法の提案に結びつける予定である。


個別課題の成果

8.1 コンクリートダムの再開発技術に関する調査

    研究予算:運営費交付金(治水勘定)
    研究期間:平13~平17
    担当チーム:水工研究グループ(ダム構造物)
    研究担当者:山口嘉一、佐々木隆、町田宗久、金縄健一
【要旨】
 治水・利水上の理由からダムの運用は今後も必要とされるが、高齢化に伴う投資余力の減少、自然環境の保全の点から、既設コンクリートダムの効率的な利用が求められている。ダムの効率的利用を目的とした再開発技術としては、(1)貯水容量を増やすための既設ダムの嵩上げ、(2)貯水容量の有効利用を目的とした放流設備を増設するための堤体穴開けがあげられる。
 本研究では、今後のダムの再開発の需要増加に対応するため、再開発技術の合理化を図る目的で、ダム高、施工時水位等に着目した嵩上げに関する数値解析的検討を行った。検討結果から、これらが嵩上げ時の打ち継ぎ目沿いの応力分布に及ぼす影響について明らかにした。
キーワード:コンクリートダム、再開発、嵩上げ、穴開け


8.2 フィルダムの嵩上げ技術に関する調査

    研究予算:運営費交付金(治水勘定)
    研究期間:平13~平17
    担当チーム:水工研究グループ(ダム構造物)
    研究担当者:山口嘉一、佐藤弘行
【要旨】
 自然環境保全に対する社会的要請の高まりから、治水整備、水資源開発においては、新規ダムの建設に頼るだけでなく、既設ダムの効率的な利用、そのために必要な既設ダムの改造技術開発が求められている。
 本課題では、フィルダム嵩上げを採り上げ、その事例資料を収集、整理、分析し、既設堤体および基礎地盤の漏水等探査方法と物性評価方法を検討した。さらに、既往嵩上げ事例が多いアースダムについて、嵩上げ規模、既設ダムと嵩上げ部の透水性、ドレーンの構造を変化させた浸透流解析を行い、すべり安定性に大きな影響を与える浸潤線の形状、浸透流量などを分析した。また、浸透流解析と併せてすべり安定解析を実施し、アースダムの嵩上げ設計上の留意点について考察した。
キーワード:アースダム、嵩上げ、浸透流解析、浸潤線、透水係数、ドレーン


8.3 ダム機能強化のための放流設備設計手法に関する調査

    研究予算:運営費交付金(治水勘定)
    研究期間:平12~平15
    担当チーム:水工研究グループ(ダム水理)
    研究担当者:柏井条介、小野雅人
【要旨】
 増設放流設備設計手法の開発のため、13年度は、(1)水平エビ継ぎ湾曲管路の圧力特性、(2)側方から空中放流により流入する減勢工の減勢特性に関する調査を行うとともに、(3)天ヶ瀬ダムにおいて、空中放流された放流水脈の減勢音特性に関する現地観測を実施した。(1)では鉛直に湾曲させた場合の実験結果との比較を行いエビ継ぎ管の圧力特性の傾向を示した。(2)では減勢工内の側壁沿いの最高水位とその位置及び露出射流の発生条件の傾向を把握した。(3)では天ヶ瀬ダムコンジットの減勢音特性の推定を行うとともに、水平水叩き式減勢工における放流音特性との比較を行った。
キーワード:増設放流設備、エビ継ぎ管、圧力特性、空中放流減勢工、減勢音特性


8.4 ダムコンクリートにおけるスラッジの有効利用に関する調査

    研究予算:運営費交付金(治水勘定)
    研究期間:平12~平14
    担当チーム:技術推進本部(構造物マネジメント技術)
    研究担当者:河野 広隆、森濱 和正
【要旨】
 ダム現場では、骨材製造時や、ダム堤体のグリーンカット時に大量のスラッジが発生する。スラッジは、産業廃棄物として多額の費用をかけて処分されているのが現状である。環境保全およびコスト縮減の観点から、スラッジの有効利用が求められている。本研究は、スラッジをコンクリートに混入して有効利用を図るために、(1)スラッジの品質評価方法、(2)スラッジを混入したコンクリートの配合設計方法の確立、を目標に実施している。
キーワード:砕石スラッジ、品質評価、配合設計、環境保全


8.5 濁沸石等含有岩石のダムコンクリート骨材としての有効利用に関する調査

    研究予算:運営費交付金(治水勘定)
    研究期間:平12~平15
    担当チーム:材料地盤研究グループ(地質)
    研究担当者:脇坂安彦、阿南修司
【要旨】
 濁沸石によるモルタルの品質低下現象は、硬化モルタルでの亀裂、剥離、ポップアウト発生などの劣化現象であり、劣化は乾燥湿潤の繰り返しが生じる場合に起こるものと考えられる。劣化したモルタルでは濁沸石からセメントペーストに向かって複数の放射状割れ目が認めれた。劣化モルタル中の濁沸石の化学組成は濁沸石の理想的な組成と変わりなく、また、濁沸石周辺に異常膨張を起こすような物質、水和物の生成は認めれなかった。したがって、濁沸石によるモルタルの劣化の原因は、化学反応ではなく、物理的な作用であると考えられる。
キーワード:コンクリート骨材、濁沸石、曝露試験、モルタル


8.6 ダム基礎等におけるゆるみ岩盤の評価に関する調査

    研究予算:運営費交付金(治水勘定)
    研究期間:平11~平17
    担当チーム:材料地盤研究グループ(地質)
    研究担当者:脇坂安彦、佐々木靖人、阿南修司
【要旨】
 ダムの基礎掘削などに伴って生じる長大のり面が環境上の問題となっている。長大のり面を縮小したり、大規模なのり面対策工を回避するためには、ゆるみ岩盤の的確な調査・評価手法を開発する必要がある。13年度は、ゆるみ岩盤の範囲や性状を的確に把握するため、地中風速測定、ならびに高精度傾斜変動測定の2つの新しい調査方法を開発した。地中風速測定は、外気温と岩盤内温度の差により岩盤内に発生する空気の流れを測定して、風速分布からゆるみ領域を把握するものである。高精度傾斜変動測定は、錘による地盤の傾斜変動を観測して、ゆるみ岩盤の原位置での変形特性を迅速に把握するものである。これらの手法を現地適用し、ゆるみ領域の把握に関して良好な結果を得た。
キーワード:ダム、ゆるみ岩盤、地中風速計測、高精度傾斜変動測定、変形特性


8.7 ダム基礎グラウチングの合理的計画設計法に関する調査

    研究予算:運営費交付金(一般勘定)
    研究機関:平13~平17
    担当チーム:水工研究グループ(ダム構造物)
    研究担当者:山口嘉一、佐藤弘行、安田裕一
【要旨】
 環境に配慮したダム建設を行う場合、環境保全上の制約から複雑な地質条件を有する地点をダムサイトとし、かつ、従来は掘削除去されていた岩盤も基礎とせざるを得ない場合がある。このため、ダムの安全性を確保するうえで、複雑な地質条件に応じた基礎岩盤の合理的、経済的な止水設計方法の開発が求められている。平成13年度は、基礎岩盤の性状に応じた透水性評価方法について検討するとともに、基礎岩盤の性状に応じたグラウチングの計画設計の検討として、グラウトの最適注入圧力・配合設定を目的とした三次元模型を用いたグラウト注入実験およびコンソリデーショングラウチング・ブランケットグラウチングの効率的な施工範囲・改良目標値設定を目的とした浸透流解析を行った。
キーワード:ダム、グラウチング、透水試験、模型実験、浸透流解析