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I 土木構造物の経済的な耐震補強技術に関する研究

→個別課題の成果要旨

研究期間:平成14年度~17年度
プロジェクトリーダー:耐震研究グループ長 松尾修
研究担当グループ:耐震研究グループ(振動、耐震)

1. 研究の必要性
 各種の土木構造物の耐震補強を実施する場合、施工の困難な橋梁基礎の補強、液状化に対する堤防の大規模な地盤改良等、現在の技術水準ではコスト面で実施上の制約が大きいため、その対処方法として構造物の全体系としての耐震性あるいは地震時変形性能を考慮することにより、合理的かつ経済的な耐震対策補強技術を開発することが必要である。

2. 研究の範囲と達成目標
 本重点プロジェクト研究では、異なる構造特性、耐震性能を代表する橋梁、土工構造物(堤防・道路盛土)および下水道施設を対象として、新たな評価の視点として地震時の全体系としての耐震性あるいは変形性能に着目して、施工の困難な部位に対する全体系としての耐震補強あるいはコスト高な部位の耐震補強の低コスト化を図ることを目的として、合理的かつ経済的な耐震補強技術(設計法および施工法)の開発を行う。これらの研究の範囲において、以下の達成目標を設定した。
    (1) 構造全体系を考慮した既設橋梁の耐震性能の評価法および耐震補強法の開発
     1) 橋梁の地震時限界状態の信頼性設計式の開発
     2) コスト低減を考慮した既設橋梁の耐震補強法の開発
   (2) 簡易変形予測手法に基づく堤防の液状化対策としての地盤改良工法の設計技術の開発
   (3) 地震時変形性能を考慮した道路盛土・下水道施設の経済的な耐震対策補強技術の開発

3. 個別課題の構成
 本重点プロジェクト研究では、上記の目標を達成するため、以下に示す研究課題を設定した。
   (1) 構造全体系の耐震性能を評価した既設道路橋の耐震補強技術に関する研究(平成14~17年度)
   (2) 堤防の耐震対策合理化に関する調査(平成12~17年度)
   (3) 液状化地盤上の道路盛土の耐震対策技術に関する試験調査(平成14~17年度)
   (4) 下水道施設の変形量を考慮した液状化対策工の設計法に関する試験調査(平成15~18年度)
 このうち、平成15年度は(1)、(2)、(3)、(4)の4課題を実施している。

4. 研究の成果
 本重点プロジェクト研究の個別課題の成果は、以下の個別論文に示すとおりである。なお、「2.研究の範囲と達成目標」に示した達成目標に関して、平成15年度に実施した研究と今後の課題について要約すると以下のとおりである。

(1) 全体構造系の耐震性能を評価した既設道路橋の耐震補強技術に関する研究
 河川橋のような施工条件の厳しい橋や中・長大橋の耐震補強対策に多額の費用を必要とするため、速やかな対策が進んでいない状況を背景として、効果的かつ経済的な耐震補強技術の開発が求められている。このため、本研究は、橋全体系として耐震性能を評価することによって合理的に耐震性能を向上させる耐震補強技術を開発することを目標として実施するものである。
  平成15年度は、両端に橋台を有する既設橋梁の全体構造系としての耐震性能評価法の検討、耐震性評価においてせん断耐力の評価が支配的となる壁式橋脚面内方向のせん断耐力実験、さらに、中・長大橋の各橋梁形式の特性を踏まえた耐震補強方針について検討を行った。
  本研究の成果として、以下のことが明らかとなった。
1) 橋台と橋台背面地盤を含めた橋全体としての耐震性能の評価を行うことにより、より合理的に橋梁本体の地震応答特性を評価可能であることを明らかにした。
2) 繰返し荷重を受けるRCディープビーム部材においてコンクリートの負担するせん断力及び帯鉄筋の効果を明らかにした。
3) 一般橋及び中・長大橋に対する橋全体系を考慮した耐震補強工法について整理した。
  今後は、既設橋梁の破壊形態と損傷度及び既設橋梁の耐震性評価方法、橋全体系の耐震性を向上させる橋台部の耐震補強法、長大橋に対する振動制御工法について、さらに検討を加える必要がある。

(2) 堤防の耐震対策合理化に関する調査
 本研究は、堤防の地震時沈下量予測法の開発と許容変位量に基づいた、より合理的な耐震対策工の設計法の提案を目的に実施するものである。
  平成15年度は、高規格堤防特別区域(堤内側緩斜面部)の地震時の変形メカニズムを一連の遠心模型実験によって検討し、沈下・側方変形量予測手法の適用性を検討した。また、締固め工法による対策工の液状化強度について現場試験および室内試験により検討し、より合理的な改良地盤の強度評価法に資する知見を得た。
  本研究の成果として、以下のことが明らかとなった。
1) 堤体に生じるクラック発生位置は、法尻対策工の有無や天端高さによらず、液状化層厚に強く依存し、このクラック発生位置よりも堤外側の盛土変形は、堤外側法尻に対策を施すことにより低減できるが、クラックより堤内側の変形にはほとんど寄与しないことが明らかとなった。
2) 堤内側堤体の変形を低減するためには、暫定擁壁の変位を小さくするだけではなく、堤体重量により液状化層が絞り出し破壊を生じている領域の変形を低減することが効果的であることが明らかとなった。
3) 二次元残留変形解析法を用いて遠心模型実験を対象とした変形解析を行い、実験での変形メカニズムをよく捉えたものとなった。堤体の沈下量も解析と実験で概ね一致しており、二次元残留変形解析法の適用性が確認できた。
4) 締固め工法により改良された地盤の液状化強度および変形特性を現場試験と室内試験により検討し、改良地盤の飽和度がかなりの程度低下していること、飽和度低下による液状化強度の増加がN値に依存すること、飽和度が低下しても液状化後の変形特性を改良することはできないこと等を明らかにした。
  今後は高規格堤防のより合理的な対策工の規模や位置について、設計法の確立に資する実験データを蓄積する必要がある。

(3) 液状化地盤上の道路盛土の耐震対策技術に関する試験調査
 本研究は、道路盛土の合理的で経済的な耐震対策工の設計法の提案を行うことを目的として実施するものである。平成15年度は、道路盛土の液状化による盛土本体および基礎地盤の変形メカニズムを明らかにするとともに、盛土本体の耐震対策の効果を明らかにするために、動的遠心模型実験を行った。
  本研究の成果として、以下のことが明らかとなった。
1) 無対策道路盛土の遠心模型実験結果から、沈下の主な要因は基礎地盤の側方移動及び盛土のストレッチングであり、これらを抑制する対策が盛土の沈下抑制に効果的であることを明らかにした。
2) 基礎地盤の側方移動及び盛土のストレッチング量は、平均盛土荷重及び液状化層厚と相関が高いことを明らかにした。
3) 盛土本体および基礎地盤の変形メカニズムに基づき、盛土沈下量の簡易予測法を提案した。
4) 対策道路盛土の遠心模型実験結果から、本実験で実施した対策はいずれも盛土の沈下抑制に効果があることを明らかにした。盛土本体の損傷を抑制する観点からは、ジオテキスタイルおよび矢板締切りによる対策が効果的であり、比較的安価なことから既設盛土の耐震対策工法として有効である可能性がある。
  今後、盛土本体の対策と基礎地盤の対策を組み合わせた場合の効果や耐震対策工の設計法について、検討を加える必要がある。

(4) 下水道施設の変形量を考慮した液状化対策工の設計法に関する試験調査
  本研究は、下水道施設の液状化対策技術として矢板締切り工法等を採り上げ、対策工を施した下水道施設の地震時挙動を明らかにし、下水道施設の浮上がり変形量を考慮した液状化対策工の設計法を提案するとともに、液状化による不同沈下の予測手法および対策手法を提案することを目的として実施するものである。
  平成15年度は、動的遠心模型実験により締切り矢板を施した下水道施設の地震時挙動を詳細に調べるとともに、締切り矢板内での下水道施設の浮上がり変位予測手法について検討した。
  本研究の成果として、以下のことが明らかとなった。
1) 地震時の矢板の健全性を照査する手法として、矢板の曲げ剛性に応じた地震時振動成分土圧の評価手法及び矢板の健全性を検討するモデルを提案した。
2) 浮上り中の構造物に浮上り速度に比例した抵抗が作用すると仮定して、矢板締切り対策を施した地中構造物の浮上り変位予測手法を提案した。
  今後、2003年十勝沖地震による下水道施設の被災事例を踏えた管路施設の液状化被害軽減策および不同沈下の予測手法・対策手法について検討を行う必要がある。


個別課題の成果

1.1 全体構造系の耐震性能を評価した既設道路橋の耐震補強技術に関する研究

    研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
    研究期間:平14~平17
    担当チーム:耐震研究グループ(耐震)
    研究担当者:運上茂樹、小林寛、近藤益央(振動)
【要旨】
 兵庫県南部地震以後、河川を横断する橋梁など施工条件の厳しい橋梁、中・長大橋において従来型の耐震補強法ではその補強対策に多額の費用を要する課題があり、より効果的、経済的な耐震補強技術の開発が求められている。本研究では、橋梁の全体構造系を考慮した耐震性能評価法及び個々の橋脚の耐震補強を不要とする耐震補強工法の開発を目標とし、両端に橋台を有する既設橋梁において、地震時に橋台が橋梁全体の応答変位を拘束する効果に着目し、橋梁規模や橋台耐力が橋梁の地震時挙動に及ぼす影響を解析的に検討した。また、耐震性評価においてせん断耐力の評価が支配的となる壁式橋脚面内方向のせん断耐力の合理的な評価法を実験的に検討した。さらに、中・長大橋の各橋梁形式の特性を踏まえた耐震補強方針について検討した。

キーワード:既設道路橋、全体構造系、耐震性能、橋台変位拘束、せん断耐力、中長大橋


1.2 堤防の耐震対策合理化に関する調査

    研究予算:運営交付金(治水勘定)
    研究期間:平12~平17
    担当チーム:耐震研究グループ(振動)
    研究担当者:田村敬一、岡村未対、石原雅規、谷本俊輔
【要旨】
 本研究は、堤防の地震時沈下量予測法の開発と許容変位量に基づいた、より合理的な耐震対策工の設計法の提案を目的に実施するものである。
  15年度は、高規格堤防特別区域(堤内側緩斜面部)の地震時の変形メカニズムを一連の遠心模型実験によって検討し、沈下・側方変形量予測手法の適用性を検討した。また、締固め工法による対策工の液状化強度について現場試験および室内試験により検討し、より合理的な改良地盤の強度評価法に資する知見を得た。

キーワード:液状化、耐震対策、地盤改良、沈下量評価


1.3 液状化地盤上の道路盛土の耐震対策技術に関する試験調査

    研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
    研究期間:平14~平17
    担当チーム:耐震研究グループ(振動)
    研究担当者:田村敬一、佐々木哲也、石原雅規
【要旨】
 兵庫県南部地震を契機として、盛土等の土構造物についても耐震性向上が必要となっているが、耐震対策に多大な費用が必要となることから、より経済的な耐震対策法が必要とされている。このため本研究は、道路盛土の合理的で経済的な耐震対策工の設計法の提案を行うことを目的として実施するものである。平成15年度は、道路盛土の液状化による盛土本体および基礎地盤の変形メカニズムを明らかにするとともに、盛土本体の耐震対策の効果を明らかにするために、動的遠心模型実験を行った。
  その結果、(1)盛土の沈下量に影響を与える盛土本体及び基礎地盤の変形量は、平均盛土荷重及び液状化層厚と相関が高いことが明らかとなった。(2)盛土本体および基礎地盤の変形メカニズムに基づき、盛土沈下量の簡易予測法を提案した。

キーワード:道路盛土、地震、液状化、液状化対策、遠心模型実験


1.4 下水道施設の変形量を考慮した液状化対策工の設計法に関する試験調査

    研究予算:受託業務費
    研究期間:平15~平18
    担当チーム:耐震研究グループ(振動)
    研究担当者:田村敬一、佐々木哲也、石原雅規
【要旨】
 兵庫県南部地震を契機として、社会資本の耐震性向上が強く求められている。下水道施設の場合、地震被害としては地盤の液状化による被害が最も多く、このような地震被害を軽減するための耐震対策技術の開発が求められている。本研究課題では、下水道施設の液状化対策技術として矢板締切り工法等を採り上げ、対策工を施した下水道施設の地震時挙動を明らかにし、下水道施設の浮上がり変形量を考慮した液状化対策工の設計法を提案するとともに、液状化による不同沈下の予測手法および対策手法を提案することを目的として実施するものである。平成15年度は、動的遠心模型実験により締切り矢板を施した下水道施設の地震時挙動を詳細に調べるとともに、締切り矢板内での下水道施設の浮上がり変位予測手法について検討した。
  その結果、(1)地震時の矢板の健全性を照査する手法として、矢板の曲げ剛性に応じた地震時振動成分土圧の評価手法及び矢板の健全性を検討するモデルを提案した、(2)浮上り中の構造物に浮上り速度に比例した抵抗が作用すると仮定して、矢板締切り対策を施した地中構造物の浮上り変位予測手法を提案した。

キーワード:下水道施設、地震、液状化、液状化対策、遠心模型実験