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14.自然環境を保全するダム技術の開発

研究期間:平成18年度〜22年度
プロジェクトリーダー :水工研究グループ長 吉田 等
研究担当グループ:技術推進本部(構造物マネジメント)、材料地盤研究グループ(地質)、水工研究グループ(ダム構造物、河川・ダム水理)

1.研究の必要性

 かけがえのない自然環境を保全し次の世代に引き継ぐことは、我々に課せられた責務である。ダムは、建設時の地形改変や完成後の堆砂など自然環境にさまざまな影響をおよぼす。持続可能な国土の保全と利用を実現するためには、自然環境の保全を追究した新しい構造形式のダムの設計技術、ダム建設による地形の改変を少なくする技術、水系一貫した土砂移動の連続性を確保する技術を開発する必要がある。

2.研究の範囲と達成目標

 本重点プロジェクト研究では、自然環境の保全を追究した新しい構造形式のダムの設計技術として、底部に大規模な空洞を有する環境負荷を最小にするダムの設計法を開発するとともに、所要強度を小さくすることによりダムサイト近傍から堤体材料の調達を可能とする台形CSGダムの設計技術を開発する。また、ダム建設による大規模な掘削や捨土による地形の改変を少なくする技術として、コンクリート骨材の品質基準を満足しないために従来は廃棄されていた規格外骨材の有効利用のための調査試験法を開発するとともに、基礎掘削を減らすために岩盤内の弱層の強度を合理的に評価する手法を開発する。あわせて、水系一貫した土砂移動の連続性を確保する技術として、貯水池および下流河川における土砂移動の予測手法を開発するとともに、貯水池堆砂を下流河川へ供給するための土砂制御技術を開発する。
  これらの達成目標を整理すると以下のとおりである。
   (1) 新形式のダムの設計技術の開発
   (2) 骨材および岩盤の調査試験法の開発
   (3) 貯水池および下流河川における土砂制御技術の開発

3.個別課題の構成

 本重点プロジェクト研究では、上記の目標を達成するため、以下に示す研究課題を設定した。
   1) 環境負荷を最小にする治水専用ダムに関する研究(平成18〜19年度)
   2) 台形CSGダムの材料特性と設計方法に関する研究(平成18〜22年度)
   3) 規格外骨材の耐久性評価手法に関する研究(平成18〜21年度)
   4) ダム基礎等における弱層の強度評価手法の開発(平成18〜21年度)
   5) 貯水池および貯水池下流河川の流れと土砂移動モデルに関する調査(平成18〜22年度)
   6) 貯水池下流供給土砂の高精度制御に関する調査(平成18〜22年度)

4.研究の成果

 本重点プロジェクト研究の個別課題の成果は、以下の個別論文に示すとおりである。なお、「2.研究の範囲と達成目標」に示した達成目標に関して、平成18年度に実施してきた研究と今後の課題について要約すると以下のとおりである。

 

(1)新形式のダムの設計技術の開発

 「環境負荷を最小にする治水専用ダムに関する研究」においては、18年度は底部に大規模空洞を有する中規模の重力式コンクリートダム(堤高75m)の可能最大の空洞規模を検討するために、横断面および縦断面の二次元組合せ解析を行い、空洞規模と堤体に発生する引張応力および圧縮応力の最大値の関係を明らかにした。また、堤体に発生する応力を緩和するためにジョイント要素により横継目をモデル化し、その位置、形状を変化させた解析を行い堤体に発生する応力の低減効果を評価するとともに、横継目部に発生するせん断応力についても評価した。さらに、ゲート及びゲート操作については、条件を単純化させたダム(ダム高70m、流域面積100km2で、河道条件として河床勾配1/100、河道断面が台形断面で下底20m、左右岸勾配1:1、対象洪水は1/100洪水でダム地点調節率50%)を対象に検討した結果、洪水のピークカット効果を発揮しつつ常時は河川の上下流の連続性を確保しうるゲート形式として、経済性や空洞ブロックへの影響の最小化の視点からシェル形式のスライドゲートが適することが分かった。19年度は、堤高の影響、横継目の構造などについて検討するとともに、曲線重力式構造など三次元的な堤体構造を考慮した三次元解析を行い、重力式コンクリートダムの規模に応じた底部における可能最大空洞規模を提案する。また、水理面では、空洞規模の違いによるゲート形式、ゲート操作および減勢方式について検討を行う。以上の検討結果をもとに、環境負荷を最小とする治水専用ダムの空洞断面及びゲート規模および減勢工方式について提案を行う予定である。
  「台形CSGダムの材料特性と設計方法に関する研究」においては、18年度は台形CSGダムの構造的安定性を評価する際に必要なCSGの配合設計法と品質管理法を提案するため、CSG供試体に対し4種類の載荷パターンによる繰返し載荷試験を実施し、繰返し載荷時の強度・変形特性には微粒分の影響が大きいことを明らかにした。また、CSGの粒度、単位水量、強度の関係に着目して現場施工データの分析を行い、重点的な監視が必要な粒度と単位水量の組合せを明らかにした。19年度は、引き続きCSGの長期信頼性を考慮した強度指標を提案するために繰返し載荷試験等の実験的検討およびCSGの強度のばらつきを考慮した堤体応力解析による検討を行う予定である。

(2)骨材および岩盤の調査試験法の開発

 「規格外骨材の耐久性評価手法に関する研究」においては、18年度は耐凍害性の劣る3種類の天然骨材(砂利)に対して、再生骨材の耐凍害性を確認するために開発した簡易凍結融解試験法の適用を試みた。この結果、コンクリートとした場合の耐久性指数と簡易凍結融解試験結果から得られる質量損失率との間には対応関係がみられること、粒子径の大きな骨材ほど劣化しやすいこと、骨材密度の小さい粒子ほど劣化しやすいこと、などの傾向が認められた。また、低品質骨材を使用したコンクリートの乾湿繰返し抵抗性を評価する試験法について検討し、「コンクリートの乾燥湿潤試験方法(案)」を提案した。この試験方法(案)は、土木学会規準の関連規準として採用されることとなった。19年度は、種々の低品質骨材について簡易凍結融解試験法の適用性を検討し、合理的かつ的確な判定手法の確立を目指す。
  また、「ダム基礎等における弱層の強度評価手法の開発」においては、18年度は弱層の分類方法について整理したほか、弱層のせん断強度に大きく影響する表面形状を精度良く計測する手法ならびに壁面強度の計測手法の試行を行い、その適用性について検討した。さらに、弱層を強度評価方法に着目して5種類にタイプ分けを行った。 また、型取りゲージおよびレーザー変位計を用いて弱層の表面形状を精度良く測定する手法を試行するとともに、適用にあたっての問題点を整理した。さらに、シュミットハンマーを用いた壁面強度の推定方法について検討を行った。19年度は、模型試験体を使用した室内せん断試験を数多く実施し、その試験結果とレーザー変位計計測によって求めたせん断面積からせん断強度と表面形状の関係を整理する予定である。

(3)貯水池および下流河川における土砂制御技術の開発

 「貯水池および貯水池下流河川の流れと土砂移動モデルに関する調査」においては、18年度は貯水池内の微細粒子土砂の挙動を計算する場合に問題となる沈降速度の設定方法、および一度沈降した粘着性を有する微細粒子土砂の再浮上特性について検討した。また、貯水池内および下流河道の詳細な河床変動を再現するために、これまでに開発した平面二次元河床変動モデルについて、非平衡の浮遊砂輸送機構の追加と混合粒径への対応の改良を行った。沈降速度については、測定方法による粒度分布結果の特性を把握した。再浮上特性については、従来の検討内容を踏まえて、種類の違う土砂試料の侵食特性を把握し、侵食現象のばらつきを把握した。19年度は、沈降速度および再浮上の実験を行い、パラメータの設定方法の確立を目指す。モデルについては、実験結果による検証や現地観測を実施して、現地計測結果との検証を行いながら再現性を向上させる予定である。
  また、「貯水池下流供給土砂の高精度制御に関する調査」においては、18年度は土砂を管路によって輸送する際に問題となるエネルギー損失の検討、新しい土砂供給手法であるダム下流への置き土、水位差を利用した吸引排砂方法について水理模型実験により検討した。エネルギー損失については、多様な条件を検討するための実験方法を開発した。置き土については、実験結果から侵食過程を簡易に予測する手法を提案した。吸引排砂方法については、シート排砂方式における適切なシート及びパイプ先端形状を把握した。また、エアーバルブを用いた排砂方法について、排砂するバルブを切り替える換作において生じる現象を再現し、細部形状の検討や運用方法の計画に有用な知見を得た。19年度は、各種の土砂について管路輸送時のエネルギー損失の把握、各排砂方法の排砂能力について定量的に把握する予定である。

個別課題の成果

14.1 環境負荷を最小にする治水専用ダムに関する研究(1)

研究予算:運営費交付金(治水勘定)
研究期間:平18〜平19
担当チーム:ダム構造物チーム
研究担当者:山口嘉一、佐々木隆、佐々木晋

【要旨】
  河川環境保全の観点から洪水調節用放流設備を河床標高付近に設置することで、常時の水位上昇を抑えるとともに土砂等の河川流下物の流下を促進する治水専用ダムの計画が増加しつつある。しかし、従来の堤体及び放流設備の設計方法に基づくと設置可能な放流設備規模が大きく制限され、洪水調節操作の必要ない中小出水時にも水位上昇が生じ、土砂等の流下状況がダム建設前と異なることが避けられない。そのため、環境負荷を更に小さくし、かつ貯水容量を有効に活用する洪水防御施設として、洪水調節操作の必要ない流量については現況河道状況のまま流下させ、必要のある大出水時のみ貯留を行う新形式のダムあるいは構造が求められている。
  上記の要請に対し、本研究では、底部に大規模空洞を有するダム堤体形式・構造及び可能な空洞規模の提案を行うことを目的としている。平成18年度は、横継目をジョイント要素で表現した2次元解析を行い、底部に大規模空洞を有するコンクリートダムの構造的可能性検討を実施した。

キーワード:コンクリートダム、治水専用ダム、ブロック割、2次元解析、ジョイント要素


14.2 環境負荷を最小にする治水専用ダムに関する研究(2)

研究予算:運営費交付金(治水勘定)
研究期間:平18〜平19
担当チーム:河川・ダム水理チーム
研究担当者:箱石 憲昭、宮脇 千晴

【要旨】
 近年、治水効果のみを有する治水専用ダムが環境面から注目されてきている。このダムは、常時には川と同様に貯留をしないもので、洪水時には、河床付近の低位に設置した洪水調節放流設備で洪水を調節し、下流の治水に有効に働く形式のものである。また、各種治水事業に対する環境問題の関心が高まっており、治水と環境を調和させた事業の展開が求められている。既存の治水ダムでは、ダムの構造面など制約条件が多く、さらなる環境面への適用ができない状況となっている。このため、環境負荷を最大限軽減するためには、既存ダムの設計とは異なる視点からダム本体構造・放流設備の設計を検討していくことが必要である。本研究で対象とするダムは、環境負荷を更に小さくし、かつ貯水容量を有効に活用する洪水防御施設として、洪水調節操作の必要ない流量については現況河道状況のまま流下させ、洪水調節の必要がある大出水時のみ貯留を行う新形式の治水専用ダムである。本研究では、このダムに必要な放流設備の規模、形状及び操作方法等を調査するものである。
  18年度は初年度であり、対象ダムを選定して、これらの可能性について検討した結果をとりまとめた。

キーワード:治水専用ダム、環境負荷、洪水調節計算、ゲート設備、ゲート操作


14.3 台形CSGダムの材料特性と設計方法に関する研究

研究予算:運営費交付金(治水勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:ダム構造物チーム
研究担当者:山口嘉一、佐々木隆、小堀俊秀、佐々木晋


【要旨】
 環境保全、コスト縮減、材料の有効利用の観点から、ダム建設におけるCSG(Cemented Sand and Gravel)の本格的な導入が望まれている。CSGはコンクリートに比較し、低強度で品質のばらつきが大きいという特徴を有するため、室内試験や現場試験により、材料特性に関する検討が進められるとともに、締切堤などの施工事例が増加してきている。しかし、施工事例に対するフィードバック研究が不足しているため、CSGの合理的な配合設計・品質管理方法について体系的な検討がなされていないのが現状である。また、CSGの繰り返し載荷時の強度・変形特性、クリープ特性などは十分に解明されていないため、これらについての検討を進め台形CSGダムの長期信頼性を保証する方法を開発する必要がある。さらに、CSGの最大の特徴である、材料強度のばらつきを考慮した重力式ダムの設計方法を開発する必要がある。
  平成18年度は、ダムの構造的安定性を評価するために必要なCSGの配合設計法と品質管理法を提案するために、CSGの繰返し載荷時の強度・変形特性を把握するための室内実験的検討、および現場施工データの分析による検討を行った。

キーワード:ダム、CSG、繰返し載荷試験、品質管理


14.4 規格外骨材の耐久性評価手法に関する研究

研究予算:運営費交付金(治水勘定)
研究期間:平18〜平21
担当チーム:技術推進本部(構造物マネジメント技術)
研究担当者:渡辺博志、片平博


【要旨】
 平成13〜17年「再生骨材・未利用骨材の有効利用技術の開発」の成果として、再生骨材の耐凍害性を簡易に評価するための試験法を提案した1)2)。18年度は耐凍害性の劣る3種類の天然骨材(砂利)に対して、この試験法の適用を試みた。この結果、コンクリートとした場合の耐久性指数とある程度の対応がみられること、粒子径の大きな骨材ほど劣化しやすいこと、骨材密度の小さい粒子ほど劣化しやすいこと、などの傾向が認められた。また、低品質骨材を使用したコンクリートの乾湿繰り返し抵抗性を評価する試験法について検討し、「コンクリートの乾燥湿潤試験方法(案)」を提案した。この試験方法(案)は土木学会規準の関連規準に採用されることとなった。

キーワード:コンクリート、低品質骨材、凍結融解試験法、冷凍庫、乾燥湿潤試験


14.5 ダム基礎等における弱層の強度評価手法の開発

研究予算:運営費交付金(治水勘定)
研究期間:平18〜平21
担当チーム:材料地盤研究グループ(地質)
研究担当者:佐々木靖人、倉橋稔幸、矢島良紀


【要旨】
 近年、ダム基礎に出現する断層やシーム等の低角度の薄い弱層がダムの効率的な建設に際して問題となる例が見受けられる。環境負荷の低減やコスト縮減のため、安全を確保しつつ掘削量を縮減するためには、低角度の弱層の適切な強度評価手法を開発する必要がある。平成18年度は、弱層の分類方法についての整理を行ったほか、弱層のせん断強度に大きく影響する表面形状を精度良く計測する手法ならびに壁面強度の計測手法の試行を行い、その適用性についての検討を行った。

キーワード:ダム基礎、弱層、低角度節理、せん断試験、形状測定


14.6 貯水池および貯水池下流の流れと土砂移動モデルに関する研究

研究予算:運営費交付金(治水勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:水工研究グループ(河川・ダム水理)
研究担当者:箱石憲昭、櫻井寿之、星野公秀


【要旨】
 ダム事業の円滑な展開、また、既設ダムの環境影響低減のためには、ダム建設や各種対策により生じる環境の変化を適切に予測するためのシミュレーション手法の確立が必要である。シミュレーション手法については、漸次研究が進められているが、現象の複雑さ、フィールドデータの少なさから、未だ確立されていないのが現状である。 そこで、本研究では、貯水池および貯水池下流河川の流れと土砂移動のモデル化を目標に、1)懸濁物質の沈降、再浮上条件の解明とモデリング手法の開発、2)貯水池流入土砂及び貯水池下流河川の土砂移動特性の解明とモデリング手法の開発、3)気象条件が貯水池及び貯水池下流河川に与える影響の解明とモデリング手法の開発、4)貯水池及び貯水池下流河川の流れを再現する高次元数値シミュレーションソフトの開発を行っている。
  初年度である18年度は、水理実験により微細粒子土砂の沈降、再浮上条件の把握や、二次元河床変動モデルの開発、ダム貯水池上下流河川の土砂移動特性を把握するための現地概査を実施した。その結果、微細粒子土砂の各種粒度分布測定法による特性や再浮上特性を把握することが出来た。また、二次元河床変動モデルの再現性は定性的に良好であることが確認された。

キーワード:ダム貯水池、土砂移動、微細粒子土砂、沈降・再浮上、二次元河床変動モデル


14.7 貯水池下流供給土砂の高精度制御に関する研究

研究予算:運営費交付金(治水勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:水工研究グループ(河川・ダム水理)
研究担当者:箱石憲昭、宮脇千晴、櫻井寿之、星野公秀


【要旨】
 貯水池下流の土砂環境保全のため、ダム貯水池において土砂量、質を制御する方法が求められているが、土砂フラッシングやバイパスなどの従来の堆砂対策手法では、操作条件や堆砂条件、土砂流入条件の影響を大きく受けるため、土砂量、質の高精度の制御が困難である。本研究では、下流環境保全と貯水池の持続的な利用を可能にすることを目的に、ダム放流量に応じて設定される下流河川への粒径別土砂供給を精度よく実施する方法を開発する。 18年度は初年度であり、置土計画策定手法の確立に資することを目的とした簡易侵食モデルの構築及び、その再現性の検証、シート排砂方式とエアーバルブ方式の2種類の土砂吸引施設案の水理機能の検討を実施した。

キーワード:ダム貯水池、堆砂対策、置土、シート排砂、エアーバルブ