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知られざる間隙の世界 -石の隙間のサイエンス-石の隙間を利用する魚たち

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河川上中流域の河底や河岸には多くの石が存在します。石の形状や配置は流程によって特徴がある為、石によって形成される隙間も渓流、谷底河川、扇状地河川では異なります。魚達は各流程に分布する特徴的な間隙を棲家として、今日まで生き抜いてきたのです。

礫の間隙は魚達のすみかとして大切であり、種によって礫のサイズや形に好みがあることが確認された

報告:担当研究員 佐川志朗
(独)土木研究所 自然共生研究センター

礫の間隙に棲む魚達を調べる

方法

2005年12月に実験河川Aに巨礫(径35㎝)、大礫(径20㎝)および中礫(径4㎝)の3種類の礫を敷き積んだ調査地を3箇所ずつ造成して(計9調査地)、翌年の6月下旬に各調査地において魚類の捕獲調査を行いました。捕獲調査は、各調査地を網で仕切りすべての礫を取り除いた上でエレクトリックショッカーを用いて行いました。また、容器内に礫と水を充満させ、各礫で形成された間隙の容積と割合を算出しました。

結果1

礫の大小に関わらず40-50%が間隙=棲家になる

礫を設置することによりどの礫サイズでも40-50%の間隙が形成されることがわかりました(図1)。また、礫1個あたりの間隙の容積は、巨礫が8.06L、大礫が1.69L、中礫が0.01Lと顕著に異なりました(図2)。

礫1個あたりの間隙容積
図3 遊泳タイプごとの生息数割合

結果2

魚種によって礫のサイズに好みがみられる

各礫の間隙とも底生魚が優占して利用していました。遊泳魚は巨礫で48%、大礫で10%と礫が小さくなるにつれ構成割合が減少し、中礫では確認されませんでした(図3)。中礫の代表種としてシマドジョウ属(平均全長:50.6mm)とヨシノボリ属(45.8mm)が抽出されました(グループA、図4)。また、大礫ではウナギ(510.0mm)とウキゴリ(63.2mm)が抽出されましたが(グループB)、大礫の1つの調査地では生息していませんでした。巨礫ではタモロコ、モツゴおよびフナ属等の遊泳魚(64.1mm)が代表種として抽出されました(グループC)。

考察 護岸に用いる礫のサイズには配慮が必要である

礫により形成される水中の間隙は魚類の棲家として機能しており、礫の大きさにより棲息する種類組成が異なることが示されました。従って、河川工事の際には、設置する礫のサイズとその場に生息している魚類との相性(定着可能性)を、今一度確認する必要があります。また本研究の結果からは、種によっては、同じ礫サイズでも棲息しない(できない)河岸も存在したため、今後は間隙内の微環境を考慮した発展的研究が必要だと考えられます。

夜行性魚類ネコギギが潜む間隙の特徴

方法

三重県宮川の一支流において2004年8月~10月にネコギギ(写真1)の昼間の棲家を潜水観察により探索しました。確認された28箇所およびその周辺では水深や流速等の物理環境を計測するとともに、河床を構成した礫の形状を判定しました。形状の判定は礫表面に規則的に設置した6点の礫面を「滑らかな凹凸」と「平面もしくは角」に区分し、「滑らか」の割合が3/6以上を玉石、2/6以下を角石と定義しました(写真2)。

結果

ネコギギは河道湾曲部の淵の中の角石群を好む

多くのネコギギが常に確認された生息場所(恒常的生息場所)は、単体のネコギギが一時的に利用した生息場所(一時的生息場所)と比較して、河道の湾曲部の淵の外岸部に多いことがわかりました。さらに棲家周辺は、水深が大きく、流れに乱れがなく、巨礫の角石が河床を覆う割合が40%と顕著に大きいこともわかりました(図5)。

考察

角石は玉石よりも暗く広い間隙をつくりだす

調査の結果、ネコギギは大きな角石が多い場所を利用していることが分かりました。以上の理由を探るために、角石と玉石の中礫を同容量ずつ6サンプル準備して、暗室で間隙割合と礫群の底に届く照度の測定実験を行いました(写真3)。その結果、角石の方が形成される間隙の割合が48%と大きく、底に届く照度が4.5ルクス(光のカット率99.95%)と暗いことがわかりました(図6)。彼らは夜行性の生態を有するため、昼間の棲家としてある程度の広さを持った暗い空間が必要なことが推測され、実験の結果はこれを支持するものと考えます。また、大きな角石が積み重なった方が、転がる玉石よりも河床の安定性が増し出水により石が動くことが少なく、頑丈な棲家を提供しているとも考えられます。

写真1 ネコギギ(揖斐川の支流) ■ 写真2 角石と玉石の区別
図5 ネコギギが生息する河床の礫被度(%)
図6 間隙割合と照度の比較

研究の成果を護岸整備へ適用する

河原の礫により形成される間隙は魚類の生息場所の一要素として重要です。その空間は植物や倒木等の有機体から形成される生息場と比べると寿命が長く、出水による耐久性も高いことから、特に外敵や出水からの恒常的な避難場所としてのメリットを有していると思われます。我が国では多くの河川でコンクリートブロックや石を用いた護岸工事が行われていますが、間隙の研究を進めることにより、そうした工事に対し間隙の生態的機能を再現させることが可能だと考えています。現在我々は、間隙内を直接観察できる実験水路を用い個々の間隙レベルでの研究に着手しており、今後、成長段階による差異や流量変化による実験を重ね、護岸工法に反映しうる情報を提供していきたいと考えています。