世界初!洗濯水のマイクロプラスチックがメダカに与える影響を明らかに
~家庭からの洗濯排水が水環境に及ぼす影響解明の糸口へ~
2025年6月17日
国立研究開発法人 土木研究所 流域水環境研究グループ 水質チーム
洗濯時に衣類から流出する微細な化学繊維「マイクロプラスチックファイバー(LMF: Laundry-derived Microplastic Fibers)」が、淡水魚の一種であるヒメダカの稚魚に及ぼす影響について、その生理・代謝・腸内環境への影響を包括的に解明した研究成果が、国際学術誌『Science of the Total Environment』に掲載されました。
本研究では、ポリエステル製の蛍光染色された布を実際に洗濯機で洗うことでLMFを作製することから始め、それを孵化直後のメダカに21日間曝露することで、以下のような重要な知見が得られました。
研究成果のポイント:
- 体長・体重の減少:高濃度(2mg/L)のLMFを曝露された稚魚では、稚魚の成長が抑制(体長7%減、体重20%減)されました。
- 腸内に蓄積されやすい長繊維:LMFは口から取り込まれて、糞として排出されますが、長いLMFほど消化管内に残留しやすい傾向が見られました。
- 代謝の変動:稚魚の体内ではプリン代謝に関連する物質が上昇し、酸化ストレスの可能性が示唆されました。
- 腸内細菌叢の変化:LMFを与えると糞の中でFlavobacterium属やBurkholderiaceae科の細菌が増加し、腸内環境のバランスに影響が生じることが示唆されました。
社会的意義:
家庭の洗濯から排出されるLMFは、家庭排水から下水処理場を経て除去されますが、その一部は河川や海などの水環境へ放出されます。実際の洗濯により生じたLMFが魚に与える影響はこれまで十分に知られていませんでしたが、本研究により、「洗濯という日常的な行為」が水環境の生態系に与える影響の一端を明らかにすることができました。
今後の予定:
洗濯繊維は家庭排水から水環境へ放出される過程で下水処理場を通ります。下水処理場には医薬品やパーソナルケア製品等に含まれる化学物質も存在していることから、実際にはさまざまな化学物質が洗濯繊維に吸着して存在することが考えられます。今後はこのような物質の水生生物への影響評価をLMFを用いて行う予定です。
【論文情報】
- タイトル:
- Effects of laundry-derived microplastic fibers on larval Japanese medaka (Oryzias latipes)
- 著 者:
- 村田里美(主任研究員)、對馬育夫(前主任研究員)、阿部翔太(前株式会社エンテックス)、北村友一(主任研究員)、岡安祐司(上席研究員)
- 掲 載 誌 :
- Science of the Total Environment, 983 (2025) 179657
- 公 開 日 :
- 2025年5月20日
- D O I:
- https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2025.179657
- 土木研究所 流域水環境研究グループ 水質チーム
- 上席研究員 岡安祐司(okayasu-y573cm*pwri.go.jp)
- 主任研究員 村田里美(s-murata*pwri.go.jp) *