国立研究開発法人 土木研究所

研究活動

社会基盤の長寿命化へ向けた非破壊検査技術開発を目指して連携協力

-理研のRInCと土研のCAESARが小型中性子イメージングで連携協力を開始-

 

2010年6月1日
独立行政法人理化学研究所
独立行政法人土木研究所

 

  独立行政法人理化学研究所(以下「理研」、野依良治理事長)社会知創成事業(土肥義治事業長)イノベーション推進センター(RInC:齋藤茂和センター長)と独立行政法人土木研究所(以下「土研」、坂本忠彦理事長)構造物メンテナンス研究センター(CAESAR:大石龍太郎センター長)は、小型中性子イメージングシステムの研究・開発を推進し、橋梁など大型構造物の内部を非破壊で検査・解析することを目指して、「土木研究所構造物メンテナンス研究センターと理化学研究所社会知創成事業イノベーション推進センターとの小型中性子イメージングシステムの研究に関する連携協力協定」を締結しました。
  この協定に基づき、2010年6月30日(水)午前10時30分から、東京国際フォーラム ホールB5で理研/土研合同シンポジウム「中性子による橋の透視への挑戦-大型構造物の予防保全に向けた革新的な検査・評価技術-」を開催します。

1 協定締結に至った経緯

  理研のRInCは、VCADシステム研究プログラム※1(VCAD)を活用して、「ものの形だけでなく、内部の構造や欠陥まで扱える情報技術」をテーマに、複雑な内部構造を持つ物体の挙動を、計測データから直接シミュレーションするための技術開発を行っています。その対象は、ものづくりをはじめとする工学分野にとどまらず、生体組織や細胞構造など、元来設計図を持たない物体・物質にも拡がりを見せ、情報技術と生物科学や医療などの分野を結びつける新たな技術として注目を集めています。
  一方、土研のCAESARは、橋梁など構造物の安全管理を目的とした技術の開発を行うセンターとして、2008年4月に発足しました。わが国の社会基盤は高度成長期に大量に建設され、建設後50年を経過する構造物が今後飛躍的に増加していきます。これらを適切に維持・管理していくために、検査技術や評価・予測技術、補修・補強技術などの研究開発を積極的に行っています。
  道路や橋などの社会基盤は、国民の安全・安心な生活を支える重要な社会基盤ですが、最近では国内での損傷の発見報道のみならず、海外における大規模な落橋事故などで世間を騒がせています。現在、こういった道路や橋などの管理は、目視点検を基本としており、ひび割れなどの損傷が見つかった場合には、詳細調査により損傷の原因や重篤度に関する情報を得ています。この際、構造物内部の損傷状況を把握するために非破壊検査を活用していますが、現在の検査技術では取得できる情報に限界があるため、革新的な検査技術の開発が世界中で求められています。
  透過性に優れる中性子の物理的な性質を利用した「中性子ラジオグラフィー※2」の原理を応用すると、コンクリートや鉄骨・鋼板から成る大型構造物についても、非破壊でその内部構造のデータを取得することが可能となります。その計測データに基づいてシミュレーションを行うと、内部構造の老朽化の程度や劣化の進展度合いを解析することが可能になると期待されます。しかし、現在国内で稼働している中性子ラジオグラフィー装置は、移動不可能な大型の装置が日本原子力研究開発機構、大強度陽子加速器施設(J-PARC)、京都大学、北海道大学など数カ所に設置されているだけです。従って、橋梁などの構造物の内部構造を現地で検査・解析するためには、小型で可搬型の装置開発が欠かせません。
  理研RInCと土研CAESARは、理研を含む国内外の研究機関における中性子ラジオグラフィーに関する要素技術と理研VCADの解析技術を融合し、橋梁などの大型構造物の内部構造を検査・解析するための小型中性子イメージングシステムの研究・開発を目指し、連携協力協定を締結することとしました。
  この協定により、理研と土研が社会基盤の予防保全※3という「ニーズプル型(具体的な社会的課題からの要請に基づいた研究・開発を実施することによって、課題解決に必要とされる研究成果や技術が効果的に引き出されるという考え方)」の研究・開発を始動し、研究機関で得られた研究成果を社会の知識・知見(社会知)へとつなげ、より効果的かつ円滑な研究成果の社会還元を実現できると期待されます。

2.協定の概要

  理研RInCと土研CAESARが相互に緊密に連携し、橋梁などの大型構造物の内部構造を検査・解析するための小型中性子イメージングシステムの研究、開発を推進します。わが国並びに諸外国における社会基盤の安全確保、長寿命化を図ることを目的として、主に以下の項目について連携協力を展開します。

  ・ 小型中性子イメージングシステムの研究の推進
  ・ 研究者の研究交流を含む相互交流
  ・ 研究施設、設備などの相互利用
  ・ 合同シンポジウム、セミナーなどの開催

3.シンポジウム開催について

  本協定に基づき、シンポジウムを開催します。シンポジウムでは、道路や鉄道橋など社会資本施設管理に必要不可欠な大型構造物の状況を非破壊で検査・評価する技術として、小型中性子イメージングシステムなど、新しい手法に関する取り組みについて紹介します。

 

タイトル 理化学研究所/土木研究所合同シンポジウム
「中性子による橋の透視への挑戦」
-大型構造物の予防保全に向けた革新的な検査・評価技術-
日時 2010年6月30日(水) 10:30~17:00
会場 東京国際フォーラム ホールB5
プログラム 第1部   大型構造物の予防保全について
第2部   中性子による検査・評価技術の概要
第3部   最新の非破壊検査・評価技術

 

詳細は、別添ちらしを参照 PDF形式(83kB)

4.各機関概要

○独立行政法人理化学研究所

  物理学、化学、医学、生物学、工学などの広範な科学・技術分野において、基礎から応用に至る研究を実施する日本で唯一の自然科学の総合研究所として、わが国の研究基盤形成、国際的にも研究水準の向上に貢献しています。

 

○独立行政法人土木研究所

  土木技術の向上を図り、良質な社会資本の効率的な整備に資することを目的として設立された、日本を代表する土木関係研究機関です。研究開発のみならず、国や地方公共団体への技術指導も行っています。

 

<報道担当・問い合わせ先>
 (問い合わせ先)
  独立行政法人理化学研究所
   社会知創成事業 連携推進部 イノベーション推進課
     課長 生越 満(おごし みつる)
     係長 田中 淑子(たなか よしこ)
         TEL:048-462-5475 FAX:048-462-4718

 

  独立行政法人土木研究所
   構造物メンテナンス研究センター
     上席研究員 木村 嘉富(きむら よしとみ)
     主任研究員 花井 拓(はない たく)
         TEL:029-879-6773 FAX:029-879-6739

 

 (報道担当)
  独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
         TEL:048-467-9272 FAX:048-462-4715

 

  独立行政法人土木研究所
     構造物メンテナンス研究センター
         TEL:029-879-6773 FAX:029-879-6739

 

 

 

<補足説明>

※1 VCADシステム研究プログラム

  ものの形状だけでなく内部構造や内部の物理属性もそのまま表現できる情報技術(Volume CAD; VCAD)を用いて、ものの設計から機能・構造予測、製造過程シミュレーションまでを同一システム内で完結する「ものつくり産業界向けプログラム・ソフトウェア」を普及するとともに、そのために不可欠な技術の高度化やアプリケーションの層の拡大を図ることを目指す研究プログラム。開発したソフトウェア群のうち基盤になるものは、公開ソフトウェアとして広く普及していく。また、ユーザーからの要望が強いものは、商品化も進めている。

※2 中性子ラジオグラフィー

  中性子線を用いて、物体内部の透過観察を行う手法。中性子線は、X線と比較すると金属などの重元素に対する透過性が高いため、軽元素に対するコントラストが付きやすいという特徴がある。このため、大型構造物の透過観察に適していることに加え、水や油などの軽元素の観察も可能であるという特長を有している。

※3 予防保全

  定期的な点検に基づき、損傷が軽微な段階から計画的に対策を行う手法。早期に問題に取り組むことにより、損傷が深刻化してから対策を行う「事後保全」と比較して、構造物の長寿命化や、ライフサイクルコストの縮減が可能と考えられている。

 

調印式写真
調印式の様子