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VI 社会資本ストックの健全度評価・補修技術に関する研究

→個別課題の成果概要

研究期間:平成13年度~17年度
プロジェクトリーダー:技術推進本部総括研究官 苗村正三
研究担当グループ:技術推進本部(先端技術、施工技術、構造物マネジメント技術)、基礎道路技術研究グループ(舗装、トンネル)、構造物研究グループ(橋梁構造、基礎)

1. 研究の必要性
 
少子高齢化による投資余力の減少のなか、安全で快適な社会・経済活動を維持するには、これまでに蓄積された社会資本のストックを有効かつ長く利用し続けていくことが必要である。このため、土木構造物の健全度を正確に評価する技術、評価結果に基づいて的確に補修する技術、さらに、土木構造物のライフサイクルを考慮した戦略的な維持管理のマネジメントシステムの開発が求められている。

2. 研究の範囲と達成目標
 
社会資本ストックの健全度評価・補修技術に関して、本重点プロジェクト研究では、土木構造物の健全度診断のための非破壊検査・監視技術や損傷評価手法の開発をはじめ、劣化や損傷を受けた構造物の補修技術、舗装の低騒音・低振動性能を回復する技術を開発する。さらに、構造物の維持管理システムとして、コンクリート構造物については健全度診断データベースの作成などの維持管理支援システム、橋梁や舗装については計画的な補修と維持管理を支援する戦略的維持管理手法の開発を行う。以上の達成目標を整理すると以下のとおりである。
    (1) 構造物の健全度診断技術の開発
        (1)-1 土木構造物の健全度評価のための非破壊検査・監視技術の開発
        (1)-2 補修の必要性を判定するための損傷評価手法の開発
    (2) 構造物の補修技術の開発
        (2)-1 コンクリート構造物の補修工法の開発
        (2)-2 既設舗装の低騒音・低振動性能の回復技術の開発
        (2)-3 劣化などを受けた構造物の補修技術の開発
    (3) 構造物の維持管理システムの開発
        (3)-1 コンクリート構造物の維持管理支援システムの開発
        (3)-2 将来の維持管理を軽減する橋梁の戦略的維持管理手法の開発
        (3)-3 将来の維持管理を軽減する舗装の戦略的維持管理手法の開発

3. 個別課題の構成
 
本重点プロジェクト研究では、上記の目標を達成するため、以下に示す研究課題を設定した。
    (1) 鋼構造物の劣化状況のモニタリング手法に関する調査(平成12~15年度)
    (2) 橋梁等の下部構造の健全度評価手法に関する研究(平成13~16年度)
    (3) アースアンカーの健全度診断・補強方法に関する研究(平成14~17年度)
    (4) 既設コンクリート構造物の補修技術の開発(平成12~15年度)
    (5) 舗装の低騒音・低振動機能の回復に関する研究(平成12~16年度)
    (6) 既設トンネルの補修・補強技術の開発(平成12~16年度)
    (7) コンクリート構造物の維持管理計画に関する研究(平成12~15年度)
    (8) 鋼橋塗替え処理技術の高度化に関する研究(平成13~17年度)
    (9) 橋梁の健全度評価と維持管理システムの高度化に関する研究(平成13~16年度)
    (10) 舗装マネジメントシステムの実用化に関する研究(平成13~15年度)
このうち、平成13年度は(3)を除く9課題を実施している。

4. 研究の成果
 
本重点プロジェクト研究の個別課題の成果は、以下の個別論文に示すとおりである。なお、「2. 研究の範囲と達成目標」に示した達成目標に関して、これまでに実施してきた研究と今後の課題について要約すると以下のとおりである。

(1) 構造物の健全度診断技術の開発
 
「橋梁等の下部構造の健全度評価手法に関する研究」においては、平成8年度に実施した道路防災総点検結果と洗掘被災に関するアンケート調査結果をもとに被災要因の分析を行い、架橋条件から変状や被災を予測する手法として、各調査項目に対する重み係数を算出した。今後は、これら分析をさらに進めるとともに、損傷の進行と被災の発生との関係について分析していく予定である。
 また、「鋼構造物の劣化状況のモニタリング手法に関する調査」においては、橋梁関係のデータベースであるMICHIに登録されているデータをもとに、橋梁の劣化状況の現況を分類、整理するとともに、文献により、モニタリング技術の現状と課題をとりまとめた。今後は、これらの結果を踏まえ、橋梁の損傷、劣化を把握するためのモニタリング項目ならびにモニタリング手法の開発を目指していく予定である。

(2) 構造物の補修技術の開発
 
「既設コンクリート構造物の補修技術」においては、劣化部分を取り除いてコンクリートを打ち直す断面補修技術について、打継面の表面処理方法(乾燥、湿潤、プライマー処理)、補修の方向(順打ち、逆打ち)、補修方法(吹きつけ、コテ塗り、注入)、補修材の種類(ポリマーの有無など)などの組み合わせを変えた実験を行い、プライマー処理の効果、逆打継面沿いでの残留気泡による弱点の発生など、それぞれの方法の得失を整理した。今後は、これら結果をもとに断面補修工の選定方法の提案を行う予定である。また、ひび割れ注入工法ついては、今後、材料や注入方法に関する実験を行う予定である。
 「舗装の低騒音・低振動機能の回復に関する研究」においては、排水性舗装における騒音低減のメカニズムについて検討し、その機能回復には、現場透水性に加え、路面のテクスチャを考慮する必要があることを示した。また、舗装の振動低減機能の回復については、表層、基層の表面部分に振動低減効果のある材料を用いることで舗装本体および沿道の振動を低減できることを示した。今後は、騒音低減機能の回復については、機能回復方法、回復法の実施時期などの提案を行う予定である。また、振動低減効果の回復については、舗装の耐久性を含めて効果の持続性について検討を行う予定である。
 「既設トンネルの補修・補強技術の開発」においては、変状発生メカニズムの解明のため、天端に圧座が発生した変状事例を対象に有限要素法による数値解析を行い、ひび割れ発生パターンの再現および作用土荷重の推定を行った。また、補修工については、L型鋼やボルトなどの代表的なトンネルはく落工について押抜き載荷試験を実施し、取り付け位置による耐荷特性の相違を明らかにした。補強工については、実大規模での覆工の載荷実験により、内面補強工が大きな補強効果が期待できない場合があることを示した。今後は、変状発生メカニズムの検討事例を増やすとともに、補修・補強工については、他の対策工についても載荷試験を実施し、対策工の耐荷力を評価できる解析手法の提案を行う予定である。

(3) 構造物の維持管理システムの開発
 
「コンクリート構造物の維持管理支援システムの開発」では、実験や既往のデータをもとに、自然電位法による鉄筋腐食度推定方法、反発度法による硬化コンクリートの強度推定方法の現場適用性、特に測定装置や測定方法が測定結果に与える影響を分析した。また、152件の既存コンクリート構造物においてコア採取を行ってコンクリートの品質を調査したデータを分析し、既存構造物のコンクリート品質(圧縮強度、中性化の進行速度、塩分の拡散係数、海砂の使用によるコンクリート中の塩分)についての実態を整理した。
 「橋梁の健全度評価と維持管理システムの高度化に関する研究手法」においては、実橋の橋梁点検データベースをもとに各種橋梁マネジメントシステム(BMS)のシミュレーションを行い、各種BMSの特徴や問題点の整理、ならびに橋梁の健全度評価に大きな影響を与える評価項目を整理した。また、「鋼橋の塗替え処理技術の高度化に関する研究」においては、補修の現状を調査し、素地調整の品質が塗装の耐久性に大きく影響するにもかかわらず、その検査方法が外観目視によって行われていることを示した。今後は、定量的かつ客観的な素地調整の品質検査方法の開発を目指していく予定である。
 「舗装マネジメントシステムの実用化に関する研究」では、ライフサイクルコストを構成する費用項目に関する国内外の研究成果をとりまとめた。また、プロジェクトレベルでの道路利用者費用として、米国連邦道路庁の“Life-Cycle Cost Analysis in Pavement Design”に示されている工事区間の道路利用者費用算定法を用いて我が国の道路状況を考慮した試算を行い、工事区間における時間損失費用、特に渋滞の影響が大きな比重を占めることを明らかにした。なお、今後は、健全度の診断技術の精度向上をはじめ、ライフサイクルコスト、管理目標の算定方法についてさらに検討を加えるとともに、診断結果の活用方法を提案する予定である。


個別課題の成果

6.1 鋼構造物の劣化状況のモニタリング手法に関する調査

    研究予算:運営費交付金(一般勘定)
    研究期間:平12~平15
    担当チーム:構造物研究グループ(橋梁構造)
    研究担当者:平原伸幸、森山彰、高橋実
【要旨】
 道路橋ストックの老朽化が進展する中で、確実かつ効率的に道路橋を維持管理するためには、構造物に生じている安全性の低下に繋がる現象を正確かつ効率的に把握し、得られた情報をもとに劣化や損傷等の諸現象を解明し適切な対応を図っていくことが不可欠である。本研究では、鋼道路橋を対象として、主桁や床版に生じるひずみや変形等の橋梁の内・外部の状態を計測し、その結果から劣化や損傷現象を効率的かつ的確に把握するための橋梁のモニタリング手法を開発するものである。平成13年度は、鋼道路橋の損傷実態を橋梁点検結果に基づき調査するとともに、各種モニタリング技術について、開発動向、劣化損傷への適用性について調査を行った。その結果、既に現場で用いられているひずみセンサーや変位センサー等の実用性及び光ファイバーセンサー等の新技術の適用可能性及び課題を明らかにした。
キーワード:道路橋ストック、老朽化、劣化、損傷、鋼道路橋、点検、診断技術、モニタリング、維持管理


6.2 橋梁等の下部構造の健全度評価手法に関する研究

    研究予算:運営費交付金(一般勘定)
    研究期間:平13~平16
    担当チーム:構造物研究グループ(基礎)
    研究担当者:福井次郎、大塚雅裕、秋田直樹
【要旨】
 我が国が保有する橋梁は13万橋を超え、近い将来、大規模な更新の時期を迎えることが想定される。これらを限られた予算の中でいかに合理的に維持管理していくかが大きな課題となっている。橋梁下部構造においては、洗掘や地震により機能低下を来しているものの他に、現行の技術基準を満足しないものも相当数存在する。これらの下部構造の健全度を適切に評価し、合理的な維持管理を行うために、下部構造の健全度評価手法に関する研究を開始した。今年度は、重大な被災事例が多く存在する洗掘について、土木研究所が実施した洗掘被災に関するアンケート調査結果に基づき、既に実用化されている道路防災総点検の評価手法の改良を行った。
キーワード:基礎、健全度、洗掘、点検


6.3 既設コンクリート構造物の補修技術の開発

    研究予算:運営費交付金(一般勘定、道路勘定)
    研究期間:平12~平15
    担当チーム:技術推進本部(構造物マネジメント技術)
    研究担当者:河野広隆、渡辺博志、片平博
【要旨】
 本研究では、コンクリート構造物を対象に、ひび割れへの樹脂注入や、劣化部分を取り除いてコンクリートを打ち直す断面補修技術について、その工法選定や施工性、補修結果に対する評価法を提案することを目的に研究を進めている。13年度は、断面補修工法について、打継面の表面処理方法[乾燥、湿潤、プライマー処理、補修の方向(順打ち、逆打ち、補修工法{吹きつけ、コテ塗り、注入、補修材の種類(ポリマー)})の有無等]の組み合わせを種々に変えた実験を行い、それぞれの得失について整理した。
キーワード:断面補修、補修材、ひび割れ、付着強度


6.4 舗装の低騒音・低振動機能の回復に関する研究 

    研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
    研究期間:平12~平16
    担当チーム:基礎道路技術研究グループ(舗装)
    研究担当者:吉田武 、新田弘之、梁真二
【要旨】
 道路交通による騒音や振動を抑制し、沿道環境を改善するために舗装の機能を向上し、低騒音化、低振動化などの方策をとる場合があるが、供用とともに機能が低下し、機能の回復が必要となる。本研究では、清掃などによる舗装の騒音低減機能の回復に関する研究及び補修などによる振動低減効果の付加に関する研究を行っている。
 平成13年度は、排水性舗装の清掃による機能回復を行った場合の透水機能の回復と騒音低減機能の回復についてメカニズムの解明を行った。その結果、効果的な機能回復には路面のテクスチャを考慮することが必要であることがわかった。また、振動軽減効果の高いと考えられる補修工法について、振動軽減効果の評価方法について検討を行った。その結果、平坦性や一定の加振による振動を把握することである程度評価できることがわかった。持続性については、今後さらに検討が必要なことがわかった。
キーワード:排水性舗装、機能回復、路面騒音、振動レベル、振動測定


6.5 既設トンネルの補修・補強技術の開発

    研究予算:運営費交付金(一般勘定、道路整備勘定)
    研究期間:平12~平16
    担当チーム:基礎道路技術研究グループ(トンネル)
    研究担当者:真下英人、石村利明、蒲田浩久、森本智
【要旨】
 トンネル変状発生メカニズム関する研究に対しては、天端に圧ざが発生した変状事例を用いて、数値解析による土圧算定を試みた。その結果、解析対象としたトンネルには9~20m程度の高さに相当する土荷重がトンネル肩部に斜め方向から作用していることが推定できた。補修工に関する研究に対しては、代表的なトンネルはく落工に対して押抜き載荷試験を実施し、耐荷特性を調べた。その結果、各定着方式の構造的特徴とその留意点が確認できた。補強工に関する研究に対しては、実大規模のトンネル覆工の載荷実験により、内面補強工(鉄板接着工、ライナープレート工)の補強効果を調べた。その結果、コンクリートの圧縮破壊で決まるような荷重形態では、従来の内面補強工では耐荷力を向上させる効果があまり期待できない場合があることが明らかになった。
キーワード:トンネル、変状、補修、補強、載荷試験、数値解析


6.6 コンクリート構造物の維持管理計画に関する研究

    研究予算:運営費交付金(一般勘定)
    研究期間:平12 ~ 平15
    担当チーム:技術推進本部(構造物マネジメント技術)
    研究担当者:河野広隆、渡辺博志、田中良樹、古賀裕久
【要旨】
 本研究では、コンクリート構造物の耐久性を検討する上で特に問題となる鉄筋の腐食度について、非破壊検査を活用して評価する方法やその結果の記録方法を検討している。また、各種非破壊検査の結果等を活用して構造物群の維持管理計画を策定する手法等について検討している。平成13年度は、非破壊検査等を用いて既存の構造物の健全度診断を実施したこれまでのデータを分析し、特に自然電位法による鉄筋腐食度の評価について検討した。また、反発度法によるコンクリートの品質調査について実験を行うなどして検討した。
キーワード:自然電位法、テストハンマー、非破壊検査、コンクリート、維持管理


6.7 鋼橋塗替え処理技術の高度化に関する調査

    研究予算:運営費交付金(一般勘定)
    研究期間:平13~平17
    担当チーム:技術推進本部(先端技術)
    研究担当者:吉田正、田中和嗣
【要旨】
 鋼橋は、塗装等によって耐久性を確保している社会資本であり、適切な塗装がなされる必要がある。塗装の耐久性は、塗料の防食性能と下地処理の品質によって決まる。特に、既設鋼橋の塗替え補修時には、素地調整の影響が大きいといわれている。本課題は、鋼橋の塗替え補修における素地調整の品質管理技術として、素地調整程度の判定技術を開発するものである。
 13年度は、鋼橋塗装の現状と、素地調整による塗装耐久性への影響を具体的に把握するために、文献及び橋梁上部工の塗装仕様や塗装の維持管理データに基づく実態調査を行った。その結果、維持管理の必要な鋼橋件数の推移が把握できた。また、塗装の塗替え補修間隔が補修を繰り返す毎に短くなることが確認でき、素地調整が塗装の耐久性に大きく影響していることが推定できた。
キーワード:鋼橋、塗装、素地調整、品質管理


6.8 橋梁の健全度評価と維持管理システムの高度化に関する研究

    研究予算:運営費交付金(一般勘定)
    研究期間:平13~平16
    担当チーム:構造物研究グループ(橋梁構造)
    研究担当者:平原伸幸、森山彰、高橋実
【要旨】
 道路橋ストックの老朽化が進展する中で、適切な維持管理と補修のためには、維持管理方法の体系化と劣化した構造物の効率的な補修技術の開発が求められている。本研究は、橋梁の劣化現象を踏まえた健全度の評価技術を開発し、橋梁に求められる健全度を明確にした上で、健全度に応じた補修対策が可能な維持管理システムの開発を行うものである。平成13年度は、現在提案されている各種の橋梁マネージメントシステム(BMS)における健全度評価手法や劣化予測手法の特徴等について整理するとともに、実橋の橋梁点検データベースを基にテストランを行い、各種BMSの健全度評価結果について比較・分析を行った。その結果、各種BMSによる橋梁の健全度評価手法について、評価の考え方や評価結果に違いが見られることが明らかとなった。
キーワード:道路橋、維持管理、マネージメントシステム、健全度評価、劣化予測


6.9 舗装マネジメントシステムの実用化に関する研究

    研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
    研究期間:平13~平15
    担当チーム:基礎道路技術研究グループ(舗装)
    研究担当者:吉田武、寺田剛、谷口聡
【要旨】
 ライフサイクルコストを構成する費用項目について検討するとともに、プロジェクトレベルでの道路利用者費用の算定方法について検討を行った。ライフサイクルコストの費用項目については、国内外の研究成果を整理統合する形で費用項目のとりまとめを行った。また、米国連邦道路庁の“Life-Cycle Cost Analysis in Pavement Design”に示されている工事区間の道路利用者費用算定法を参考に、算定法に関する検討を行うとともに、道路利用者費用について試算を行った。その結果、工事区間における時間損失費用、特に渋滞の影響が大きな比重を占めることがわかった。
キーワード:ライフサイクルコスト、道路利用者費用、車両走行費用、時間損失費用、工事規制