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IX 都市空間におけるヒートアイランド軽減技術の評価手法に関する研究

→個別課題の成果要旨

研究期間:平成11年度~15年度
プロジェクトリーダー:水工研究グループ上席研究員(水理水文) 吉谷純一
研究担当グループ:水工研究グループ(水理水文)、基礎道路技術研究グループ(舗装)

1. 研究の必要性
 人口の集中とエネルギー消費、緑被や水面の減少などにより、都市域の温暖化現象(ヒートアイランド現象)が進行していることが広く知られている。しばしば、道路舗装がその主原因と思われたり、水循環系再生計画における緑地・水面保全計画がその対策ともなると期待されたりすることがある。このため、社会基盤整備におけるヒートアイランド現象への影響を定量的に評価するとともに、その軽減策を提示することが求められている。

2. 研究の範囲と達成目標
 本重点プロジェクト研究では、都市域の気象解析モデルを開発するとともに、都市域のヒートアイランド現象軽減策のうち、社会資本整備の立場からの貢献として、各種対策を講じた場合の必要費用を可能なものについて算出し、対策の効果を都市域の気温低減、地表面付近の気温などの居住環境改善、エネルギー使用量の削減量などで算定することにより、効果的なヒートアイランド軽減施策の推進に資する資料を提供することを研究の範囲とし、以下の達成目標を設定した。
   (1) 都市域におけるヒートアイランド現象のシミュレーション手法の確立
   (2) 対策技術および対策シナリオの提案
      (2)-1 温度低減性能に優れた舗装材料の提案
      (2)-2 各種対策シナリオの開発
   (3) 対策シナリオの費用と気温低減・使用エネルギー削減効果の解明
      (3)-1 社会基盤整備に伴うヒートアイランド軽減対策の効果の解明
      (3)-2 緑被や水域など気候緩和効果の予測と評価手法の提案
      (3)-3 排熱対策の効果の予測と評価手法の提案

3. 個別課題の構成
 本重点プロジェクト研究では、上記の目標を達成するため、以下に示す研究課題を設定した。
   (1) メソスケールモデルを用いた各種対策による気温低減効果の予測に関する研究(平成11~14年度)
   (2) 都市環境に配慮した舗装構造に関する研究(平成12~15年度)
   (3) ヒートアイランド現象軽減手法の費用対効果に関する調査(平成12~15年度)
 このうち、平成14年度は(1)、(2)、(3)の3課題を実施している。

4. 研究の成果

(1) 都市域におけるヒートアイランド現象のシミュレーション手法の確立
 「メソスケールモデルを用いた各種対策による気温低減効果の予測に関する研究」においては、前年度までシミュレーションモデルを開発してきた。人工排熱と気温上昇のフィードバック機能の追加などをしても、シミュレーション結果にほとんど差が認められなかったため、これ以上のモデル開発は行わなかった。

(2) 対策技術および対策シナリオの提案都市
 「メソスケールモデルを用いた各種対策による気温低減効果の予測に関する研究」においては、東京23区における屋上緑化の普及(みどり率が現状の28.6%から32%および45%となる2ケース)、河川の水面再生(水面積率が現状の5%から10%となるケース)、保水性舗装導入(全道路に蒸発効率0.06及び0.15の保水性舗装を導入する2ケース)の気温低減効果のシミュレーション試算に加えて、日射の近赤外域成分を主体に反射させて高温化を防止する高反射性舗装(全道路のアルベドを0.1から0.6にするケース)の効果の実測と試算を行い、その有効性を示すとともに、他の対策とともに相対比較を行った。その結果を、夏期正午における新規対策導入面積当たりの気温低減効果で比較すると、水面再生が最も効果的で、他の対策の約2倍程度の効果を示すことが明らかとなった。また、2010年を想定して首都圏の人工排熱がヒートアイランド現象をどの程度悪化させるかの試算を行い、ヒートアイランド現象が広域化する可能性があることを示した。
 「都市環境に配慮した舗装構造に関する研究」においては、ヒートアイランド対策技術として、路面温度低減効果の高い車道舗装について機能評価および耐久性の評価を、実験場内で舗装を試験施工し、温度を測定するとともに、促進荷重車を走行させる試験により、行った。その結果、熱反射舗装(灰)と透水性舗装(白)の温度低減効果が優れて、実用性を考慮すると熱反射舗装が最も効果が高いと考えられた。また、路面温度を低減できる舗装は、対流動性の向上に効果的であることが分かった。

(3) 対策シナリオの費用と気温低減・使用エネルギー削減効果の解明
 「ヒートアイランド現象軽減手法の費用対効果に関する調査」においては、ヒートアイランド対策を実施した場合の省エネルギー効果の定量化のために、民生家庭・業務部門を対象とした省エネルギー対策効果やエネルギー消費量の気温感応度、各種対策の実施費用の検討を行った。その結果、気温感応度は戸建住宅が集合住宅より高く、日平均気温25℃のときの冷房負荷量に対して1℃の上昇によって30%の冷房負荷増となった。業務用建物では1℃の違いにより12℃の冷房負荷変化が見られた。また、屋上緑化、地上緑化、水面再生、遮熱性舗装等の初期費用と維持管理費用を整理したところ、地上緑化や遮熱性舗装で費用が相対的に少ない結果となった。


個別課題の成果

9.1 メソスケールモデルを用いた各種対策による気温低減効果の予測に関する研究

    研究予算:運営費交付金(一般勘定)
    研究期間:平11~平14
    担当チーム:水工研究グループ(水理水文)
    研究担当者:吉谷純一、木内豪
【要旨】
 都市域のヒートアイランド現象を緩和するための各種対策が提案されているが,複数の代替案を対象とした実現性や気温低減効果に関する検討・比較は十分行われていない.このため,本研究は,首都圏を対象としてヒートアイランド現象の実態,原因分析に基づいた対策シナリオを提示し,これらの対策シナリオ実施による気温低減効果を予測することを目標として実施する.平成14年度は,東京23区における屋上緑化の普及,河川の水面再生,保水性舗装導入に加えて,日射の近赤外域成分を主体に反射させて高温化を防止する高反射性舗装の効果の実測と試算を行い,その有効性を示すとともに,他の対策とともに相対比較を行った.また,2010年を想定して首都圏の人工排熱量がヒートアイランド現象をどの程度悪化させるのかについて試算を行い,ヒートアイランド現象が広域化する可能性があることを示した.
キーワード:メソスケールモデル,ヒートアイランド,各種対策,高反射性舗装,人工排熱


9.2 都市環境に配慮した舗装構造に関する研究

    研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
    研究期間:平12~平15
    担当チーム:基礎道路技術研究グループ(舗装)
    研究担当者:吉田 武、新田 弘之、城戸 浩
【要旨】
 都市部では、ヒートアイランド現象や局所的な集中豪雨による都市型水害の多発などが見られ、これらへの対策が各方面で進められている。舗装からの対策技術として路面温度低減効果が高い舗装が注目されているが、これらの効果の検証,耐久性の確認などが課題である。そこで本研究は路面温度低減効果が高い舗装について機能評価及び耐久性の評価を行った。
 その結果、熱反射舗装(灰)と透水性舗装(白)の温度低減効果が優れていたが、実用性を考慮すると、熱反射性舗装が最も効果が高いと考えられた。また、舗装の路面温度を低減させることにより、耐流動性向上に大きな効果が期待できることが分かった。
キーワード:ヒートアイランド現象、車道透水性舗装、熱反射舗装、保水性舗装、明色化舗装


9.3 ヒートアイランド現象軽減手法の費用対効果に関する研究

    研究予算:運営費交付金(一般勘定)
    研究期間:平13~平15
    担当チーム:水工研究グループ(水理水文)
    研究担当者:吉谷純一,木内豪
【要旨】
 都市の高温化や地球温暖化の抑制を図るためには,各種対策の効果と費用を明らかにし,効果的な対策を提示する必要がある.このため,本研究では屋上緑化,水面の再生,舗装の改善,自動車排熱の抑制などのヒートアイランド軽減対策を実施した場合の省エネルギー効果,大気への負荷削減効果,生活環境の向上効果や対策費用の面から社会経済的影響の定量化を行うことを目標として実施する.平成14年度は,民生家庭・業務部門を対象とした省エネルギー対策効果の定量化やエネルギー消費量の気温感応度に関する検討,各種対策の実施費用に関する検討を行った.外気温条件の違いが冷房・暖房負荷に及ぼす影響に関する熱負荷シミュレーションの結果,気温感応度は戸建住宅が集合住宅より高く,日平均気温25℃のときの冷房負荷量に対して1℃の上昇によって30%の冷房負荷増となった.業務用建物では1℃の違いにより12%の冷房負荷変化が見られた.また,屋上緑化,地上緑化,水面再生,遮熱性舗装等の初期費用と維持管理費用の実績情報を整理したところ,地上緑化や遮熱性舗装で費用が相対的に少ない結果となった.今後は,便益の定量化検討を可能な限り進めて総合的な対策評価を行い,効果的な対策の提案を行う必要がある.
キーワード:メソスケールモデル,ヒートアイランド,人工排熱,時空間分布,将来推計