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XIII 環境に配慮したダムの効率的な建設・再開発技術に関する研究

→個別課題の成果要旨

研究期間:平成13年度~17年度
プロジェクトリーダー:水工研究グループ長 永山 功
研究担当グループ:技術推進本部(構造物マネジメント)、材料地盤研究グループ(地質)、水工研究グループ(ダム構造物、ダム水理)

1. 研究の必要性
  環境保全の重要性に対する認識の高まりとともに、社会資本の整備にあたっては、事業の効率性を高めると同時に、自然環境や地球環境に及ぼす影響を極力回避、軽減することが求められている。このため、これまで整備されてきた社会資本ストックを有効に活用する方策を立案するとともに、新規の社会資本整備においても、環境に及ぼす影響を極力軽減できるような技術の開発が求められている。本重点プロジェクト研究では、ダム事業を対象として、上記の要請を踏まえて、既設ダムの有効活用技術の開発、自然環境へ及ぼす影響を極力回避できるような新規ダムの建設技術を開発する。

2. 研究の範囲と達成目標
 本重点プロジェクト研究では、既設ダム、貯水池の有効活用を図るために、既設ダムの嵩上げ設計手法、放流設備の機能増強技術の開発を行う。また、新規のダム建設にあたっては、堤体材料を採取する原石山の改変を最小限に抑えるために、規格外骨材の有効利用方法の開発、およびダムサイトの掘削法面を最小化するために、ダム基礎岩盤の力学設計の高度化技術、貯水池法面の斜面対策を最小化するために、貯水池斜面の安定性評価技術の提案を行う。あわせて、自然環境への影響を軽減するために、従来よりも柔軟にダムサイトが選定できるように、ダム基礎岩盤の止水設計の高度化技術を提案する。これらの達成目標を整理すると以下のとおりである。
   (1) ダムの嵩上げ設計手法の開発
   (2) ダムの放流設備増強技術の開発
   (3) 規格外骨材の品質評価および有効利用方法の開発
   (4) 複雑な地質条件に対応した基礎岩盤、貯水池斜面の評価と力学設計技術の開発
   (5) 岩盤性状に応じた透水性評価と止水設計技術の開発

3. 個別課題の構成
 本重点プロジェクト研究では、上記の目標を達成するため、以下に示す研究課題を設定した。
   (1) コンクリートダムの再開発技術に関する調査(平成13~17年度)
   (2) フィルダムの嵩上げ技術に関する調査(平成13~17年度)
   (3) ダム機能強化のための放流設備設計手法に関する調査(平成12~15年度)
   (4) トンネル内放流設備の水理設計手法に関する調査(平成16~17年度)
   (5) ダムコンクリートにおけるスラッジの有効利用に関する調査(平成12~14年度)
   (6) 濁沸石等含有岩石のダムコンクリート骨材としての有効利用に関する調査(平成12~15年度)
   (7) 低品質細骨材の有効利用に関する調査(平成15~17年度)
   (8) 複雑な地質条件のダム基礎岩盤の力学的設計の合理化に関する調査(平成14~17年度)
   (9) ダム基礎等におけるゆるみ岩盤の評価に関する調査(平成11~17年度)
   (10) ダム基礎グラウチングの合理的計画設計法に関する調査(平成13~17年度)
 このうち、平成14年度は(4)、(7)を除く8課題を実施している。

4. 研究の成果

(1) ダムの嵩上げ設計手法の開発
 「コンクリートダムの再開発技術に関する調査」においては、13年度に続いて、施工時の貯水位、嵩上げ率(新旧ダムの堤高の比)、基礎岩盤の変形性が嵩上げダムの応力に及ぼす影響について整理した。また、14年度から、堤体の穴開け時に発生する引張応力の分布特性について検討を始め、その結果をとりまとめた。今後は、堤体嵩上げ時や堤体穴開け時に大きな影響を及ぼす因子に着目してさらに検討を進め、コンクリートダムの嵩上げ設計方法や堤体穴あけ設計方法の提案を行う予定である。
 また、「フィルダムの嵩上げ技術に関する調査」においては、13年度は、嵩上げ事例の調査のほか、モデルダムに対する浸透流解析、すべり安定解析から、旧堤体の透水性が嵩上げダムの安定性に及ぼす影響を整理した。14年度は、高密度電気探査による既設ダムとその基礎地盤の漏水探査と物性評価を実施し、その適用性を考察した。また、昨年に引き続き、モデルダムに対する浸透流解析、すべり安定解析から、旧堤体の透水性が嵩上げダムの安定性に及ぼす影響を整理した。今後は、動的解析によって耐震性の検討を行い、既設堤体および基礎地盤の性状に応じたフィルダムの嵩上げ設計方法の提案を行う予定である。

(2) ダムの放流設備増強技術の開発
 「ダム機能強化のための放流設備設計手法に関する調査」においては、13年度は、既設ダムに新たな放流設備を設置する手法として湾曲エビ継ぎ管の水理模型実験を行い、管路内の水理特性をとりまとめた。14年度は、既設放流設備の横に新たに放流設備を設置して、側方から減勢池へ空中放流する場合を想定し、その減勢特性、放流音特性についてとりまとめた。今後は、開水路の放流設備に対して、側方から湾曲導水する場合の導流、減勢方法についてさらに検討を進め、放流設備増設時における放流設備の水理設計手法の提案を行う予定である。

(3) 規格外骨材の品質評価および有効利用方法の開発
 「ダムコンクリートにおけるスラッジの有効利用に関する調査」においては、13年度は、RCD用コンクリート、ELCM用コンクリート、従来コンクリート、高流動コンクリートの4種類のモルタルを用いてスラッジを混入させた場合の性状調査を行った。14年度は、RCD用コンクリート、従来コンクリートについて、スラッジを混入させた場合のフレッシュ性状、圧縮強度、凍結融解抵抗性の変化について試験を行った。この結果、硬化体組織が緻密になることによって、強度は増加し、乾燥収縮や中性化速度は低減するというプラスの面がある一方、ワーカビリティーが低下することが分かった。しかし、適切な量の混和剤の利用によってワーカビリティーを改善できることが分かり、その配合設計方法をとりまとめた。今後は、「低品質細骨材の有効利用に関する調査」において、規格外細骨材の有効利用方法について検討を進める予定である。
 「濁沸石含有岩石のダムコンクリート骨材としての有効利用に関する調査」においては、13年度に引き続き、濁沸石によるモルタルの劣化原因について検討した。その結果、濁沸石周辺に異常膨張を起こすような新たな物質や水和物の生成は認められず、乾湿繰り返しによる濁沸石の膨張圧がコンクリートの劣化をもたらす原因であることを明らかにした。すなわち、濁沸石によるコンクリートの劣化の原因は、化学反応ではなく、物理的な作用であると推定された。この結果、濁沸石使用骨材は乾湿繰り返しのない内部コンクリートには使用可能であることを示した。今後は、濁沸石をはじめとした有害鉱物含有骨材の影響とその対処方法をとりまとめ、有害鉱物含有骨材の有効利用法の提案を行う予定である。

(4) 複雑な地質条件に対応した基礎岩盤、貯水池斜面の評価と力学設計技術の開発
 「ダム基礎等におけるゆるみ岩盤の評価に関する調査」においては、13年度は、ゆるみ領域の分布や変形性の把握を目的として地中風速測定、高精度傾斜変動測定の2つの手法を開発した。14年度は、横坑やボーリング孔内でのゆるみ分布の把握を目的として、地中風速測定装置によるゆるみゾーンの判定方法、高密度弾性波探査によるゆるみゾーンの判定方法を検討し、その有効性を示した。今後は、13年度、14年度に提案、開発した調査方法の精度をさらに高めることにより、ゆるみ岩盤の発生機構の解明を明らかにするとともに、ゆるみ岩盤に対する地質調査方法の提案を行う予定である。
 「複雑な地質条件のダム基礎岩盤の力学的設計の合理化に関する調査」は、今年度から開始した課題である。14年度は、軟岩をダム基礎とする場合を想定し、軟岩の変形特性を高精度で測定する方法として高精度軸ひずみ測定装置を用いた三軸試験方法を提案し、その結果から軟岩の変形特性を高精度で表現できる力学モデルを提案した。今後は、これら検討をさらに進め、岩盤の非線形性やそのバラツキを考慮したダム基礎岩盤の安定性評価手法の提案を行う予定である。

(5) 岩盤性状に応じた透水性評価と止水設計技術の開発
 「ダム基礎グラウチングの合理的計画設計法に関する調査」においては、13年度は、3次元模型を用いたグラウト注入試験を行い、注入や配合の変化によるグラウトの注入特性の変化を整理した。また、浸透流解析によって、コンソリデーショングラウチング、ブランケットグラウチングの施工範囲、改良目標値が浸透流量に及ぼす影響をとりまとめた。14年度は、浸透流解析によってグラウチングによる効果的な止水ゾーンの形成方法を検討したほか、既設ダムのグラウチングデータをもとに最適なグラウチング孔間隔の設定方法について検討した。今後は、原位置試験も含めた実験的検討、既存のグラウチングデータの分析をさらに進め、透水性の改良度の空間分布を考慮した適切なグラウチングの設計法、効果判定法の提案を行う予定である。


個別課題の成果

13.1 コンクリートダムの再開発技術に関する調査

    研究予算:運営費交付金(一般勘定)
    研究期間:平13~平17
    担当チーム:水工研究グループ(ダム構造物)
    研究担当者:山口嘉一、佐々木隆、金縄健一、石橋正義
【要旨】
 近年、自然環境の保全の観点から、ダムの効率的な利用が求められている。ダム、特にコンクリートダムの効率的利用を目的とした再開発技術としては、(1)貯水容量を増やすための既設ダムの嵩上げ、(2)貯水容量の有効利用を目的とした既設堤体における放流設備の増設に伴う堤体穴開けがあげられる。本課題は、(1)コンクリートダムの合理的な嵩上げ設計方法、(2)合理的な堤体穴開け設計方法を提案することを目的として実施するものである。本年度の検討により、施工時水位(施工を行う際の水位)、嵩上げ率(=嵩上げ高/旧堤体の堤高)および基礎岩盤の変形性が嵩上げ後の新堤体に発生する応力に与える影響について明らかにし、設計、施工および運用を考慮した嵩上げ設計を行う上での留意点を抽出した。また、堤体穴開けの実施工手順を考慮した場合、一般的な設計での着目点とは異なる位置に大きな引張応力が発生することを明らかにし、堤体穴開けに対する設計を行う上での留意点を抽出した。
キーワード:重力式コンクリートダム、嵩上げ、嵩上げ公式、穴開け


13.2 フィルダムの嵩上げ技術に関する調査

    研究予算:運営費交付金(治水勘定)
    研究期間:平13~平17
    担当チーム:水工研究グループ(ダム構造物)
    研究担当者:山口嘉一、佐藤弘行
【要旨】
 自然環境の保全に対する社会的要請の高まりから、治水整備、水資源開発において、既設ダムの効率的な利用が求められている。このため、本研究では、フィルダムの嵩上げを採り上げ、既設堤体および基礎地盤の漏水などの探査方法と物性評価方法、嵩上げ設計方法、嵩上げダムの挙動監視方法を提案するものである。
 平成14年度は、高密度電気探査による既設堤体および基礎地盤の漏水等探査方法と物性評価方法を検討した。さらに、嵩上げアースダムの嵩上げ規模、既設ダムと嵩上げ新設部との透水性の差などを変化させた浸透流解析を行い、すべり安定性に大きな影響を与える浸潤線の形状や現行設計法である震度法によるすべり安全率を整理・分析し、アースダムの嵩上げ設計上の基礎的な留意点について考察した。また、大規模な嵩上げ事例として、アースダムからロックフィルダムへの嵩上げについては、すべり安定解析、築堤解析を行い、嵩上げ設計上の注意点について考察した。
キーワード:フィルダム、嵩上げ、電気比抵抗、乾燥密度、すべり安全率、築堤解析


13.3 ダム機能強化のための放流設備設計手法に関する調査

    研究予算:運営費交付金(治水勘定)
    研究期間:平12~平15
    担当チーム:水工研究グループ(ダム水理)
    研究担当者:柏井条介、小野雅人、大黒真希
【要旨】
 既設洪水吐き横に設置される、ダムの増強放流設備では、放流水を既設減勢工に導流する必要があり、湾曲導流水路の水理設計手法の確立、既設減勢工を利用した減勢工の水理設計手法の確立が求められている。14年度は、13年度に引き続き、既設減勢工横から空中放流される放流水の減勢特性調査、空中放流の適用性を判断する上で必要な知見となる減勢時放流音特性調査を実施した。減勢特性調査では、運動量式に基づき13年度実験結果を分析し、跳水に必要な下流水深を明らかにするとともに、安定した減勢流況の得られる減勢池条件を求めた。また、放流音特性調査では、天ヶ瀬ダム現地観測を継続して行い、13年度より更に大きい放流量での発生音についても13年度の結果の外挿により概ね表されることを示した。
キーワード:空中放流、跳水、導流壁、副ダム、減勢音特性


13.4 ダムコンクリートにおけるスラッジの有効利用に関する調査

    研究予算:運営費交付金(治水勘定)
    研究期間:平12~平14
    担当チーム:技術推進本部(構造物マネジメント技術)
    研究担当者:河野 広隆、森濱 和正、片平 博
【要旨】
 ダム現場では、骨材製造時やダム堤体のグリーンカット時に大量のスラッジが発生する。スラッジは、産業廃棄物として多額の費用をかけて処分されているのが現状である。このため、環境保全およびコスト縮減の観点から、スラッジの有効利用が求められている。本研究は、スラッジをコンクリートに混入して有効利用を図るために、(1)スラッジの品質評価方法、(2)スラッジを混入したコンクリートの配合設計方法の確立、を目標に実施した。
キーワード:砕石スラッジ、品質評価、配合設計、環境保全


13.5 濁沸石等含有岩石のダムコンクリート骨材としての有効利用に関する調査

    研究予算:運営費交付金(治水勘定)
    研究期間:平12~平15
    担当チーム:材料地盤研究グループ(地質)
    研究担当者:脇坂安彦、阿南修司
【要旨】
 濁沸石によるモルタルの品質低下現象には、硬化モルタルでの亀裂、剥離、ポップアウト発生などの劣化現象がある。劣化したモルタルの詳細な顕微鏡観察では、沸石からセメントペーストに向かって複数の放射状割れ目が認められた。また、濁沸石周辺に異常膨張を起こすような物質、水和物の生成は認められなかった。一方濁沸石を吸水、乾燥させると繰り返し膨張圧が生じることが判明した。このため、この膨張圧の発生がモルタル劣化の原因であると推定した。
キーワード:コンクリート骨材、濁沸石、曝露試験、モルタル


13.6 複雑な地質条件のダム基礎岩盤の力学的設計の合理化に関する調査

    研究予算:運営費交付金(治水勘定)
    研究期間:平14~平17
    担当チーム:水工研究グループ(ダム構造物)
    研究担当者:山口嘉一、市原裕之、佐藤弘行、中村洋祐
【要旨】
 環境保全上の制約から、さまざまな地質条件を有する地点をダムサイトとせざるを得ない。本課題では、このような状況を踏まえて、軟岩をダム基礎とした場合について、ダム基礎岩盤の変形性評価方法の提案および変形に対する基礎岩盤の安全性評価方法の提案を目指した研究を行う。
 平成14年度は、軟岩の非線形変形性を高精度の軸ひずみ測定装置を用いた三軸圧縮試験により把握するとともに、それを構成式によりモデル化した数値解析により再現した。
キーワード:ダム基礎,軟岩,変形性,ばらつき,非線形


13.7 ダム基礎等におけるゆるみ岩盤の評価に関する調査

    研究予算:運営費交付金(治水勘定)
    研究機関:平11~平17
    担当チーム:材料地盤研究グループ(地質)
    研究担当者:脇坂安彦、佐々木靖人、倉橋稔幸
【要旨】
 ダムの基礎掘削などに伴って生じる長大のり面が環境上の問題となっている。長大のり面を縮小させたり、大規模なのり面対策工を回避するためには、ゆるみ岩盤の的確な調査・評価手法を開発する必要がある。
 14年度は、ゆるみ岩盤の範囲や性状を的確に把握するために新たにボーリング孔内型の地中風速測定装置を開発し適用性を検討した。地中風速測定は、外気温と岩盤内温度の差により岩盤内に発生する空気の流れを測定して、風速分布からゆるみ領域を把握するものである。また、横坑内で高密度弾性波探査を実施し、P波速度分布をからゆるみ領域をゾーニングした。以上、これらの手法を現地適用し、ゆるみ領域の推定が可能であることがわかった。
キーワード:ダム、ゆるみ岩盤、地中風速測定、高密度弾性波探査


13.8 ダム基礎グラウチングの合理的計画設計法に関する調査

    研究予算:運営費交付金(治水勘定)
    研究機関:平13~平17
    担当チーム:水工研究グループ(ダム構造物)
    研究担当者:山口嘉一、佐藤弘行、中村洋祐
【要旨】
 環境に配慮したダム建設を行う場合、環境保全上の制約から複雑な地質条件を有する地点をダムサイトとせざるを得ない場合がある。このため、ダムの安全性を確保するうえで、複雑な地質条件に応じた基礎岩盤の合理的、経済的な止水設計方法の開発が求められている。平成14年度は、基礎岩盤の性状に応じたグラウチングの計画・設計法の検討としてカーテングラウチングの効率的な施工範囲・改良目標値設定を目的とした浸透流解析による検討および既設ダムのグラウチングデータの分析による最適な規定孔間隔の検討を行った。
キーワード:ダム、カーテングラウチング、改良目標値、浸透流解析、規定孔