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VII ダム湖およびダム下流河川の水質・土砂制御技術に関する調査

→個別課題の研究要旨

研究期間:平成14年度~17年度
プロジェクトリーダー:水工研究グループ上席研究員(ダム水理) 柏井条介
研究担当グループ:水工研究グループ(ダム水理)

1. 研究の必要性
 ダム下流域の河川における生物環境保全のため、時間的な変動も考慮したうえで、貯水池に滞留する水および土砂を適切な量、質で下流へ供給し、水棲生物生息の場としてふさわしい河床形態および河川の水量、水温、水質を形成、維持するための技術開発が求められている。あわせて、貯水池の堆砂を軽減し、良好な貯留水質を維持するための技術開発が求められている。

2. 研究の範囲と達成目標
 本重点プロジェクト研究では、ダム湖および下流河川の環境保全技術のうち、貯水池に流入する土砂の量、質および土砂の貯水池内での挙動の解明、下流河道への土砂供給手法の開発、下流へ供給した土砂の挙動予測手法の開発、貯水池および放流水の水温・濁度制御手法の開発、流量変動による自然の擾乱・再生現象を再現し、貯水池利用とも調和する放流手法の開発を行うことを研究の範囲とし、以下の達成目標を設定した。
   (1) 貯水池における流入土砂量の量、質および土砂移動形態の予測手法の開発
   (2) 下流への土砂供給施設の設計・運用手法の開発と下流へ供給した土砂の挙動予測手法の開発
   (3) 水質保全設備の効果的な運用による貯水池および放流水の水温・濁質制御手法の開発
   (4) 流量変動による自然の擾乱・再生現象を再現する、ダム下流の環境改善を目指したダムからの放流手法の提案

3. 個別課題の構成
 本重点プロジェクトでは、上記の目標を達成するため、以下に示す研究課題を設定した
   (1) 貯水池堆砂の予測手法に関する調査(平成11~14年度)
   (2) 土砂による水路の摩耗・損傷予測と対策に関する調査(平成14~17年度)
   (3) 貯水池放流水の水温・濁度制御に関する調査(平成13~15年度)
   (4) ダムからの供給土砂の挙動に関する調査(平成15~17年度)
   (5) ダム下流の流量変動と河川の再生に関する調査(平成16~17年度)
 このうち、平成16年度は(2)、(4)、(5)の課題を実施している。

4. 研究の成果
 本重点プロジェクト研究の個別課題の成果は、以下の個別論文に示すとおりである。なお、「2.研究の範囲と達成目標」に示した達成目標に関して、平成16年度に実施してきた研究と今後の課題について要約すると以下のとおりである。

(1) 下流への土砂供給施設の設計・運用手法の開発と下流へ供給した土砂の挙動予測手法の開発
 本目標に関しては、「土砂による水路の摩耗・損傷予測と対策に関する調査」および「ダムからの供給土砂の挙動に関する調査」を実施している。
  「土砂による水路の摩耗・損傷予測と対策に関する調査」では、水理模型実験において損傷する壁面材料として発泡フェノール樹脂を主たる対象とし、損傷負荷と損傷量の関係を、衝突角度を変化させて調査した。また、高速ビデオを用いて木製及び発泡フェノール樹脂それぞれの場合の砂礫の床面への衝突状況を明らかにし、両者の比較を行った。
  その結果、発泡フェノール樹脂の損傷量と損傷エネルギーの関係には線形関係が認められ、模型上の損傷材料として適当な性質を有していることを確認した。発泡フェノール樹脂における衝突時の減速係数は、壁に垂直な方向(反撥係数に等しい)で0.2、水平な方向で0.74程度であり、水平方向の係数は、コンクリート損傷時の0.7~0.8と同様の値となっている。また、床面材料を木製、発泡フェノール樹脂とした場合の衝突前速度と飛び出し後速度の差は、床面に水平な方向で大きく、垂直方向には小さい結果となった。垂直方向には揚力や回転運動の影響によると思われる加速が生じており、当初懸念された反撥係数の違いが粒子運動に与える影響は小さいと考えられた。以上より、発泡フェノール樹脂の掃流砂の運動とコンクリート上のそれには概ねフルード則が成立するものと考えられ、損傷量等の模型値を求めることにより、原型での損傷量を求めることが可能との結論を得た。
  以上の他、15年度に設計した損傷試験装置の製作を実施しており、今後は、発泡フェノール樹脂を用いた具体的水路の損傷量予測を行うとともに、試験装置を用いたコンクリート等の各種材料の損傷特性を把握する予定である。
  「ダムからの供給土砂の挙動に関する調査」では、上下流方向に延長の長い置土の侵食実験を置土上端が冠水しない条件下にて実施し、先端部及び側部それぞれの侵食状況を明らかにするとともに、側部の侵食量の算定方法について検討を行った。
  その結果、置土の侵食速度が先端部におけるものと側部におけるものとに分けて議論することが可能であること、射流水路の場合、側部の侵食速度の分布は先端部で生じる衝撃波の影響を受けることを示した。また、置土先端部の流砂量は置土幅、高さの影響を受けにくいこと、置土側部の流砂量に対する置土高さの影響は粒径により異なり、比較的大きな粒径では余り影響がないこと、粒径が小さく側部侵食により上部の残留部がオーバーハング後に落下し、流下する場合には、高さが大きくなるに従って流砂量も大きくなることを示した。更に、これら実験結果を用いた解析を行い、側部の浸食現象が河道の拡幅現象として算定しうることを示した。
  今後は、側部侵食の算定モデルの精度向上を図るとともに、上流端部の侵食速度を表わす方法を検討する予定である。また、下流端部の侵食特性を把握するとともにその算定方法を検討し、置土全体の侵食状況を表す方法を提案したいと考えている。また、併せて平面2次元の河床変動モデルによる予測を実施する予定である。

(2) 流量変動による自然の擾乱・再生現象を再現する、ダム下流の環境改善を目指したダムからの放流手法の提案
 本調査に関しては、「ダム下流の流量変動と河川の再生に関する調査」を実施しており、河道にフラッシング流量の流下がないために堆積した微細粒子の再浮上条件、侵食速度について現地材料を用いた水理実験を通じて検討するとともに、現地に成育する付着藻類の剥離条件を求めるための方法を検討した。また、剥離した藻類の回復期間について既往研究をとりまとめた。
  その結果、微細粒子の再浮上及び侵食は、局所的かつ偶発的に生じること、移動限界を表わす限界摩擦速度は含水比が大きいほど小さくなり、10-2m/sのオーダーにあることを示した。侵食速度は、実験ごとのばらつきが大きく、同程度の摩擦速度、含水比でも10倍以上の差が生じた。この原因として侵食が局所的かつ偶発的に生じていることが考えられた。
  付着藻類の剥離と再生について、現地藻類の剥離条件を把握するには現地試験が有用であると考え、そのための試験装置の基本的な考え方をまとめた。また、剥離後の藻類は、出水の擾乱を受けない場合、20~30日で衰退を始めるようであり、1ヶ月程度が生産性を維持するために必要なフラッシュ放流周期の目安となるであろうことを示唆した。
  今後は、微細粒子の侵食速度について偶発性を考慮した解析方法を検討するとともに、剥離試験装置製作のために必要な水理特性調査、剥離後の付着藻類の生育状況に対する更なる文献調査と分析を実施する。また、フラッシュ放流の水量確保のための貯水池運用方法について検討することを考えている。


個別課題の成果

7.1 土砂による水路の磨耗・損傷予測と対策に関する調査

    研究予算:運営費交付金(治水勘定)
    研究機関:平14~平17
    担当チーム:水工研究グループ(ダム水理)
    研究担当者:柏井条介、宮脇千晴、井上清敬
【要旨】
 近年の流域一貫した土砂管理の観点やダム貯水池の堆砂対策の観点から、貯水池に流入する土砂を下流に供給する土砂輸送施設の展開が期待されており、施設の磨耗・損傷対策の確立が求められている。本調査は、土砂輸送施設の磨耗・損傷量予測方法を開発するとともに、ライニング材料の磨耗・損傷特性を解明するために実施しているものであり、磨耗・損傷予測方法として水理模型実験による方法を考えている。16年度は、水理模型実験で用いる壁面材料候補として発泡フェノール樹脂を取り上げ、衝突角度を変化させた試験を実施し、損傷特性を明らかにした。また、直線水路の流下砂礫を対象に床面が木製、発泡フェノール樹脂の場合のそれぞれの衝突状況を明らかにし、両者の比較により模型実験の損傷値を実施設の損傷値に換算する方法を示した。さらに、15年度設計した損傷試験装置の製作を実施した。

キーワード:土砂管理、堆砂、土砂輸送施設、損傷、衝突エネルギー


7.2 ダムからの供給土砂の挙動に関する調査

    研究予算:運営費交付金(治水勘定)
    研究期間:平15~平17
    担当チーム:水工研究グループ(ダム水理)
    研究担当者:柏井条介、櫻井寿之、井上清敬
【要旨】
 将来に亘るダム機能の維持、流域一貫した土砂管理の観点から、貯水池内の土砂を排除し下流河道に供給することが求められており、土砂バイパス、土砂フラッシング、下流河道への仮置きなどが計画・実施されるダムが徐々に増加してきている。下流に土砂を供給するためには、供給した土砂の挙動を予測、評価する必要があるが、個別ダムごとに検討が行われているのが現状であり、その予測、評価手法の確立が望まれている。本調査は、下流仮置土の洪水時の侵食・流下現象を中心に、貯水池流入土砂を下流に供給した場合の土砂の挙動を解明することを目的に実施しているものである。15年度は、平面形状が長方形で天端が水没しない固定床上の置土の侵食過程の把握を行い、侵食が置土上流域の水衝部と中下流域の側岸侵食部に分けられるであろうことを示した。これを受け、16年度は上下流方向に延長の長い置土の侵食実験を実施し、両者の流砂量の把握を行うとともに、側岸部の流砂量の計算方法について検討を行った。

キーワード:土砂管理、堆砂、置土、侵食、流砂量


7.3 ダム下流の流量変動と河川の再生に関する調査

    研究予算:運営費交付金(治水勘定)
    研究期間:平16~平17
    担当チーム:水工研究グループ(ダム水理)
    研究担当者:柏井条介、結城和宏、大黒真希
【要旨】
 ダム建設による下流河川の流況の安定化により、魚などの餌になる付着藻類の健全な育成の阻害、微細粒子成分の堆積による底生生物の成育環境の変化、産卵場の喪失などの問題を軽減・解消するため、フラッシュ放流の必要性が指摘されるようになっている。本調査は、フラッシュ放流の適切な頻度、流量、継続時間の推定方法を示すとともに、フラッシュ放流を行うための操作方法を提案することを目的に実施するものである。16年度は堆積した微細粒子の再浮上条件、侵食速度について水理実験を通じて検討するとともに、現地に成育する藻類の剥離条件を求めるための方法を検討した。また、剥離した藻類の回復期間について既往研究をとりまとめた。

キーワード:付着藻類、フラッシュ放流、剥離、回復