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II のり面・斜面の崩壊・流動災害軽減技術の高度化に関する研究

→個別課題の成果要旨

研究期間:平成14年度~17年度
プロジェクトリーダー:土砂管理研究グループ長 寺田秀樹
研究担当グループ:材料地盤研究グループ(土質、地質)、土砂管理研究グループ(火山・土石流、雪崩・地すべり研究センター)

1. 研究の必要性
 近年頻発する豪雨・地震・火山噴火等に伴うのり面・斜面災害から国民の生命・財産を守るためには、防災施設の着実な整備に加えて、発生した災害を最小限にくい止め、二次災害の発生を防止する減災技術の積極的な推進が求められている。

2. 研究の範囲と達成目標
 本重点プロジェクト研究では、のり面・斜面災害の軽減技術のうち、集落及び道路を保全対象として、災害危険度予測技術の開発、のり面・斜面保全工の最適配置・設計手法の開発、新技術を導入したのり面・斜面の調査・モニタリング技術の開発、道路斜面リスクマネジメント技術の開発を行うことを研究の範囲とし、以下の達成目標を設定した。
   (1) 危険箇所、危険範囲の予測と総合的なハザードマップの作成技術の開発
   (2) 数値解析によるのり面・斜面保全工の最適配置・設計手法の開発
   (3) GIS、ITを用いたのり面・斜面の調査・モニタリング技術の開発、道路斜面リスクマネジメント技術の開発

3. 個別課題の構成
 本重点プロジェクト研究では、上記の目標を達成するため、以下に示す研究課題を設定した。
   (1) 火山活動の推移に伴う泥流発生危険度評価と規模の予測手法に関する研究
   (2) 火山地域における泥流氾濫シミュレーション及びハザードマップの精度向上に関する研究
   (3) 地すべり危険箇所の抽出手法に関する調査
   (4) 地すべり抑止杭工の機能及び合理的設計に関する調査
   (5) 道路防災マップを用いた道路斜面の評価技術の開発
     (旧課題名(15年度まで);「GISを用いた道路斜面リスクマネジメントシステムの開発」)
   (6) 先端的な道路斜面崩壊監視・安定度評価技術の開発
   (7) 岩盤斜面の調査・計測・ハザード評価技術の調査
     (旧課題名(15年度まで);「不確実性を考慮した岩盤斜面ハザード評価技術に関する調査」、
      「岩盤斜面モニタリング手法の高度化に関する試験調査」を合体)
   (8) 光ファイバーセンサーによる地すべり挙動調査

4. 研究の成果
 本重点プロジェクト研究の個別研究の成果は、以下の個別論文に示すとおりである。なお、「2.研究の範囲と達成目標」に示した達成目標に関して、平成17年度までに実施してきた研究と今後の課題について要約すると以下のとおりである。

(1) 危険箇所、危険範囲の予測と総合的なハザードマップの作成技術の開発
 個別課題として、「火山活動の推移に伴う泥流発生危険度評価と規模の予測手法に関する研究」「火山地域における泥流氾濫シミュレーション及びハザードマップの精度向上に関する研究」「地すべり危険箇所の抽出手法に関する調査」を実施した。
 「火山活動の推移に伴う泥流発生危険度評価と規模の予測手法に関する研究」では、火山噴火に伴う降灰による影響を受けた流域において火山活動の推移に伴う降灰範囲や厚さなど流域特性の経時変化を考慮した泥流発生危険度評価と規模の予測手法を開発することを目的としている。
 このため本研究では、主に2000年に噴火した三宅島を対象とした現地観測・調査を実施し、噴火後に水文環境が一変した流域における降雨流出特性を把握するとともに、噴火後の流域で支配的なHorton型表面流の発生に着目した総合的な流出解析モデルを開発し、噴火後の三宅島における水と土砂の流出を物理的に追跡し、現地観測データの再現に成功した。また、空中写真判読やレーザプロファイラデータを用いた解析により、噴火後の主な土砂生産源であるガリー侵食の形成特性を検討し、移動可能土砂量の推定手法を提案した。
 以上により、今後の火山噴火に際しては、本研究で得られたモデルにより、火山活動の推移に伴う泥流発生危険度評価と規模の予測を行うことで、火山噴火の状況に応じた警戒避難体制や応急緊急の砂防対策計画の見直しに反映できる。なお、三宅島の泥流対策計画策定に、本研究による観測データが活用されている。今後は、火山灰の浸透能を支配する要因を含め、その変化と堆積厚さが土砂流出に与える影響について検討する必要がある。

 「火山地域における泥流氾濫シミュレーション及びハザードマップの精度向上に関する研究」は、火山地域の氾濫域における複雑な地形条件下の泥流の氾濫、堆積特性を明らかにし、火山泥流の氾濫範囲の推定精度向上を図ることによって、精度の高いハザードマップの作成手法や最適な施設配置計画の策定手法を提案することを目的としている。
 1)人工構造物や複雑な地形での泥流氾濫、堆積特性のモデル化のため、泥流の流下堆積実験を行い、2)従来の構造格子モデルから非構造格子モデルを用いるとともに、氾濫計算モデルの重力項の計算法を改良することで、泥流氾濫シミュレーションの精度向上を図った。さらに、3)屈曲地形を有する地域での非構造格子の設定ルールを示し、GISによる非構造格子設定化手法を導いた。また、この非構造格子により流路を的確に表現し、渓流保全工等の効果や施設による氾濫への影響について評価する手法を提案した。以上、1)、2)により、泥流氾濫・堆積機構をモデル化することができた。3)により、GISを活用した泥流ハザードマップ作成手法および泥流氾濫シミュレーションを活用した対策施設の計画手法を提案した。
 今後は、これらにより、複雑な地形の影響や導流堤等の施設効果等を評価したハザードマップの作成や対策計画の検討が可能となるが、提案した非構造格子モデルの自動設定プログラムが開発されればさらなる省力化が可能となる。

 「地すべり危険箇所の抽出手法に関する調査」は、数値標高データなどの国土数値情報を用いて定量的な判定に基づき地すべり地形を自動抽出する手法及び地すべり危険度の概略評価手法を提案することを目的としている。
 自動抽出手法については、勾配‐ラプラシアン‐凹凸度、または勾配‐地上開度‐地下開度を用いた地すべり領域の抽出と、遷急線・遷緩線を用いた地すべり境界の抽出を組合せて評価するアルゴリズムにより、典型的な地すべり地形を有する地すべり地は自動抽出が可能なことを示した。
 また、地すべり危険度の概略評価手法については、相関分析により災害の発生と高い相関性が認められた「地すべり履歴」、「地すべり地形の明瞭さ」等の地すべり危険箇所調査項目に着目し、既往の各調査項目の配点を補正することでより適切な危険度評価に改良できることを示した。
 今後、自動抽出にかかる本アルゴリズムを用いることで、広範囲からの地すべりブロックの抽出作業において、典型的な地すべり地形を概略的に抽出することで技術者による地形判読の省力化を図ること等が考えられる。今回の検討過程において遷急線・遷緩線を抽出する手法を提案したことにより、判読が困難な初生地すべりについてもその発生危険箇所の推定方法につながる可能性がある。また、危険度の判定では、調査員の主観が影響する項目があり、これらの調査手法の向上が課題である。
 以上により、火山泥流を対象に火山活動の推移を考慮した危険箇所、危険範囲の予測と施設効果を考慮した総合的なハザードマップ作成技術の開発、地すべりを対象に危険箇所の予測技術の開発を行った。今後は、深層崩壊を含め、土砂災害の危険度評価の定量化をさらに進める必要がある。

(2) 数値解析によるのり面・斜面保全工の最適配置・設計手法の開発
 数値解析によるのり面・斜面保全工の最適配置・設計手法の開発のため、地すべり抑止杭を対象に、「地すべり抑止杭工の機能及び合理的設計に関する調査」を実施した。
 本研究は、地すべり抑止杭工の設計において、地盤の物性値と杭材の物性値を考慮した杭形式の合理的な選定手法と3次元応力解析法を用いた地すべり杭工の設計手法を提案することを目的としている。
 本調査では、FEM解析を用いた検討を行い、1)地すべり土塊の変形係数と杭の曲げ剛性、地すべり土塊内の杭長により求められるβ・lを指標とし、β・lが概ね1.5以上であれば、抑え杭の設計式を用いることで安全側の設計とすることができる。2)地すべり抑止杭の適切な杭間隔は、地すべり土塊の物性値によって変わるが、FEM解析を杭間隔設定に用いることができる。3)3次元FEM解析によって杭の効果を評価しながら杭諸元を低減していくことにより、既往設計手法を用いる場合よりもコストの低減が図れる可能性があることを示した。
 以上、1)から地盤の物性値と杭材の物性値を考慮した杭形式の合理的な選定手法、2)、3)から3次元応力解析法を用いた地すべり杭工の設計手法を提案できた。
 現段階では3次元FEMを用いた設計は既往の設計手法に比べて解析コストと時間を要するため、設計費相当のコスト縮減が見込める大規模地すべりや、既往設計手法では設計が難しいすべり面深度や地すべりブロック形状が左右非対称な地すべりで適用していくことが望ましいと考えられる。今後は、異なる種類の抑止工を組み合わせる場合の設計方法等を検討する必要がある。

(3) GIS、ITを用いたのり面・斜面のモニタリング技術、管理技術およびリスクマネジメント技術の開発
 のり面・斜面の主に管理技術、リスクマネジメント技術の開発のため、「道路防災マップを用いた道路斜面の評価技術の開発」、モニタリング技術の開発のため「先端的な道路斜面崩壊監視・安定度評価技術の開発」「岩盤斜面の調査・計測・ハザード評価技術の調査」「光ファイバーセンサーによる地すべり挙動調査」を実施した。
 「道路防災マップを用いた道路斜面の評価技術の開発」は、道路の防災管理に必要な情報を系統的に収集・評価した道路防災マップ作成活用手法の提案、道路防災マップ等を基にした対策効果の評価手法の提案、道路防災マップ情報システムの提案を目的としている。
 本研究では、1)事前通行規制区間の事例、災害履歴や対策実績のデータベースを収集し、道路防災マップの基本的な仕様を整理した上で、4つの事前通行規制区間において試作を行うとともに、道路防災マップ作成要領(案)を作成した。2)道路防災マップ作成に必要な技術体系の検討を行い、特にGISを用いる場合の有用性等に着目して「道路斜面防災GISデータ整備標準仕様書(案)」「道路斜面防災GIS標準仕様書(案)」「道路斜面ハザードマップ作成要領(案)」「航空レーザ計測による道路斜面基図作成要領(案)」を作成し、これをもとにプロトタイプ道路斜面防災GISを作成した。3)ハザード評価の支援ツールとして、地形量(傾斜角,ラプラシアン,平均曲率)を重回帰分析によって斜面の壊れやすさ(フラジリティー)を区分し,それぞれの区分ごとに雨量に対する崩壊確率(フラジリティーカーブ)を算出する崩壊発生危険度予測手法ならびに崩土到達範囲予測手法として、DEMを用いて表層崩壊の崩壊源からの崩土の到達範囲を解析,表示,保存する機能を有するプログラムである「崩土到達範囲シミュレーション」を開発した。崩壊発生確率と崩土到達範囲予測手法を組み合わせ、斜面が崩壊して道路へ到達する危険性の評価を行い、GIS上に表示することで、道路に対する斜面崩壊の危険箇所を視覚的に把握することが可能となった。4)道路災害の分析を行い災害発生密度から防災点検の精度を確認した。リスクマネジメント手法として、防災点検における要対策、カルテ対応等のカテゴリー毎に年間・延長あたりの災害発生件数(災害潜在性原単位)を求め降雨との相関曲線から防災対策の効果を簡易に評価する手法を提案した。
 これらの成果は既にいくつかの現場事務所において事前通行規制区間緩和、道路維持管理の業務に活用されているほか、平成18年度に行われる防災点検要領案に反映される予定である。 なお、上記3)の研究成果である「崩土到達範囲確率予想シュミレーションソフトの開発」は、平成15年度の応用地質学会で「最優秀賞」を受賞している。

 「先端的な道路斜面崩壊監視・安定度評価技術の開発」は、光ファイバーセンサーを活用した線的あるいは面的な斜面崩壊モニタリングシステムの開発と、表面変状および降雨浸透モニタリングによる内部応力の変化を考慮したリアルタイムでの斜面の安定度評価による総合的な斜面崩壊予測手法の開発を目的としている。
 斜面崩壊モニタリングシステムの開発では、実斜面での試験モニタリングを実施して基礎データの収集・分析を行い、実際の崩壊とそれに先立つ前兆現象を捉えている。これらから、斜面の変状現象からの表層崩壊の予測と斜面防災管理上の運用方法について検討し、ひずみ速度図およびひずみ軌跡図などを用いた「光ファイバセンサによるモニタリングの運用マニュアル」および「斜面表層崩壊モニタリング用標準ソフトウエア」を作成した。
 総合的な斜面崩壊予測手法については、降雨時の土砂系斜面崩壊(特に表層崩壊)は、降雨により斜面表層地盤内の含水量上昇に伴う負の間隙水圧の低下に起因する強度定数(c,φ)の低下が原因であると考え、浸透流・安定解析により崩壊に至る降雨量を予測する手法について提案した。さらに、光ファイバセンサなどにより捉えた降雨時の表面変状による崩壊予測を支援する手法として、降雨浸透モニタリングによる支援の考え方を示した。
 本研究により、日常の累積ひずみを分析することで事前に崩壊危険域の把握が可能であり、崩壊規模を予測することで適切な対応ができること、さらに、崩壊直前にあっても、数時間以内ではあるが崩壊の前兆現象を捉えることができることを示したことで、マニュアルの道路のり面・斜面での適用による災害の軽減が期待される。

 「岩盤斜面の調査・計測・ハザード評価技術の調査」は、弱層や亀裂分布の調査手法、振動状況による不安定岩盤ブロックの調査手法を基に、個別斜面の詳細な危険度マップ作成手法、調査・計測の不確実性を考慮した岩盤斜面の要対策箇所の的確な抽出手法を提案することを目的としている。
 個別斜面の危険度マップの作成や要対策箇所の抽出を目的として、エアートレーサー試験、物理検層を利用した岩盤斜面内部の劣化部検出方法の開発、さらにレーザを用いた斜面形状の詳細な記載と三次元弾性波トモグラフィーによる劣化部の抽出をおこなった。また、振動計測による不安定岩盤ブロックの抽出手法の開発を行った。
 1)エアートレーサー試験の調査手法を、「エアートレーサー試験による岩盤斜面の亀裂調査マニュアル(案)」としてとりまとめた。また、「岩盤中の亀裂探査方法」として特許第3433225号を取得した。2)ボーリング孔内の水位を強制的に上昇させた物理検層では、岩盤斜面内の劣化部を従来の約10倍の密度で5cm間隔で連続的に計測できるようになった。3)三次元地形測量と三次元弾性波トモグラフィー解析により、弾性波速度の変化から岩盤斜面の劣化部を定量的かつ面的にマッピングすることができ、危険な劣化部分を抽出することが可能となった。4)振動計測では、現地計測及び計測結果の解析から、安定ブロックと不安定ブロックを区別でき、岩盤接着工により岩盤が安定化した状況を振動の変化によって捉えることができた。これらを基に、本手法の計測・解析の方法等を示す「不安定岩盤ブロック抽出のための岩盤斜面振動計測マニュアル(案)」をとりまとめた。

 「光ファイバーセンサによる地すべり挙動調査」は、光ファイバーセンサを活用した地すべりの面的挙動調査法の提案を目的としている。
 地すべり挙動が顕著でない時点で、さらに積雪地域での観測にも対応させるため、現地試験等により、直交配置法による光ファイバ直接埋設方式を考案した結果、移動杭測量に比較し地すべり斜面の面的挙動を迅速に把握することができ、かつブロック区分も可能となった。
 しかし引張ひずみが1%を越えると破断してしまうため、大きな地すべり挙動や圧縮ひずみに対応できるB-OTDR方式光FS、FBG方式光FSの開発を行った。光ファイバとコイルバネ及び板バネの機械的メカニズムを組み合わせたこれら伸縮計は、積雪の影響を除くため地表面下に埋設でき、伸縮及び圧縮量100mmまで観測が可能となった。現場への導入においてコスト面に課題があったが、FBG方式は大幅に安価となり、多数の伸縮計を連続して設置する場合、従来型伸縮計よりも優位となった。
 なお、B-OTDR方式は「地すべり挙動調査用光ファイバセンサ」(特許第3653550号)、「地盤伸縮計の計測装置」(特許第3653550号)を取得し、FBG方式光ファイバ伸縮計は特許出願中(特願2004-65794号)である。
 以上から、光ファイバー等を用いたのり面・斜面のモニタリング技術、GIS等を活用した道路防災マップによる管理技術および災害潜在性原単位に着目したリスクマネジメント技術の開発を行った。今後は、開発したモニタリング技術の低コスト化等によりその活用を図るとともに、道路通行止め時間と災害規模に着目して、リスクマネジメント手法の改善を行っていく必要がある。


個別課題の成果

2.1 火山活動の推移に伴う泥流発生危険度評価と規模の予測手法に関する研究

  研究予算:運営費交付金(治水勘定)
  研究期間:平13~平17
  担当チーム:土砂管理研究グループ(火山・土石流)
  研究担当者:栗原淳一、山越隆雄
【要旨】
 火山噴火に伴って細粒火山灰が堆積した斜面では,地表面の浸透能が低下し,表面流が発生しやすくなるといわれている。その結果,火山灰が堆積した流域では,噴火前には泥流や土石流が発生しなかった小雨でも泥流・土石流が発生するようになると指摘されている。噴火時には噴火活動の推移に応じて,火山灰の堆積範囲や厚さなどが変化するため,泥流や土石流の発生危険度や規模等は刻々と変化する流域特性に応じて変化する。そのため,火山活動の推移に伴う泥流発生危険度および規模の予測手法に関する研究が必要とされている。本研究では,三宅島を対象として現地観測を行うことで,噴火後の火山における降雨時の水と土砂の流出特性を把握し,それをもとに泥流ハイドログラフ推定モデルの構築や移動可能土砂量の推定手法について検討を行い,火山噴火後の泥流発生危険度と規模を予測する手法を提案した。

キーワード:火山噴火、火山灰、泥流ハイドログラフ、移動可能土砂量、三宅島


2.2 火山地域における泥流氾濫シミュレーション及びハザードマップの精度向上に関する研究

  研究予算:運営交付金(治水勘定)
  研究期間:平14~平17
  担当チーム:土砂管理研究グループ(火山・土石流)
  研究担当者:栗原淳一、秋山一弥
【要旨】
 火山泥流による災害を防止するため、泥流氾濫域を精度良く予測し、警戒避難体制を整備する必要がある。例えば火山山麓において都市化が進行している箇所では、火山泥流の流下・堆積現象が建造物や道路等の人工構造物の影響を受け、複雑になり、氾濫域を正確に予測することが困難なケースがある。そこで本研究では、複雑な氾濫域の形状を考慮した泥流氾濫・堆積機構をモデル化し、GISを活用した泥流ハザードマップの作成手法を提案する。そして、泥流氾濫シミュレーションを用いた対策施設計画手法を提案する。

キーワード:火山泥流、市街地氾濫、土砂堆積、水理実験、人工構造物


2.3 地すべりの危険箇所の抽出手法に関する調査

  研究予算:運営費交付金(治水勘定)
  研究期間:平15~平17
  担当チーム:土砂管理研究グループ(地すべり)
  研究担当者:藤澤和範、石井靖雄
【要旨】
 地すべりによる被害の軽減のためには、地すべりの危険箇所を抽出しその危険度を評価してハザードマップを整備することが重要となる。本調査では数値標高モデル(DEM)データから地すべりブロックを自動抽出するアルゴリズムと、地すべり危険箇所調査項目と既往災害発生データの相関分析により危険度評価手法の改良について検討を行った。その結果、自動抽出は勾配‐ラプラシアン‐凹凸度、または勾配‐地上開度‐地下開度を用いた地すべり領域の抽出と、遷急線・遷緩線を用いた地すべり境界の抽出を組合せて評価するアルゴリズムにより、典型的な地すべり地形を有する地すべり地は自動抽出が可能なことを示した。また、相関分析により災害の発生と高い相関性が認められた「地すべり履歴」、「地すべり地形の明瞭さ」、「地すべり兆候」、「地質」等の地すべり危険箇所調査項目に着目し、既往の各調査項目の配点を補正することでより適切な危険度評価に改良できることを示した。

キーワード:数値標高モデル(DEM)、危険度評価、相関分析、地すべり危険箇所調査


2.4 地すべり抑止杭工の機能および合理的設計に関する調査

  研究予算:運営費交付金(治水勘定)
  研究期間:平14~平17
  担当チーム:土砂管理研究グループ(地すべり)
  研究担当者:藤澤和範、石井靖雄
【要旨】
 本調査では、地すべり土塊の変形係数と杭の曲げ剛性の相対的な関係を検討できるFEM解析モデルを用い、地すべり抑止杭の既往設計式とFEM解析結果を比較し、既往設計式の適用を検討した。また、地すべり抑止杭工の適切な杭間隔の設定手法を検討するためFEM解析を用いて地すべり土塊の物性値と杭間隔が杭周辺地盤の破壊に及ぼす影響を明らかにした。そして、その結果を用いて3次元FEM解析による合理的な抑止杭の設計手法について検討した。その結果、地すべり土塊の変形係数と杭の曲げ剛性、地すべり土塊内の杭長により求められるβ・lが概ね3以下になると、FEM解析により得られる最大曲げモーメントはくさび杭の設計式でも求められる最大曲げモーメントよりも大きくなる場合が見られ、その場合、β・lが概ね1.5以上であれば、抑え杭の設計式を用いることで安全側の設計とすることができることが分かった。また、地すべり抑止杭の最大杭間隔は、地すべり土塊の物性値によって変わることが明らかとなり、FEM解析により杭間隔の設定が可能であることが明らかとなった。さらに、FEM解析を3次元に拡張して合理的な抑止杭の設計手法を提案し、コスト縮減の可能性を示した。

キーワード:地すべり、抑止杭、有限要素法、杭間隔、設計法


2.5 道路防災マップを用いた道路斜面の評価技術の開発(1)

  研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
  研究期間:平14~平17
  担当チーム:材料地盤研究グループ(地質)
  研究担当者:佐々木靖人,倉橋稔幸,矢島良紀
【要旨】
 道路防災においては斜面の危険度評価に基づく合理的な対策の立案が求められているため,災害の要因,履歴,対策等の情報,対策の進捗を明示した道路防災マップを作成し,これらの情報に基づく斜面の危険度評価と防災計画の立案の枠組みを構築することを目的として,道路斜面における面的な危険度評価手法ならびに道路防災マップ作成手法等のリスクマネジメント技術の開発を行った。

キーワード:道路斜面,道路防災マップ,ハザードマップ、リスクマネジメント,崩壊危険度分布


2.6 道路防災マップを用いた道路斜面の評価技術の開発(2)

  研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
  研究期間:平14~平17
  担当チーム:材料地盤研究グループ(土質)
  研究担当者:小橋秀俊、加藤俊二、桝谷有吾
【要旨】
 本研究は、防災管理に必要な情報を系統的に収集・評価し「道路防災マップ」としてとりまとめる技術および防災マップ等をもとに防災対策の効果を評価する技術を開発することを目的として、地質チームと合同で実施している。この中で、土質チームはまた、道路防災分野の研究の今後の方向性を探るための基礎的調査を実施するとともに、対策の意志決定支援をするマネジメント手法の検討を行った。

キーワード:道路斜面災害、防災管理、道路防災マップ、リスクマネジメント


2.7 先端的な道路斜面崩壊監視・安定度評価技術の開発

  研究予算:運営交付金(道路整備勘定)
  研究期間:平14~17
  担当チーム:材料地盤研究グループ(土質)
  研究担当者:小橋秀俊、加藤俊二、桝谷有吾
【要旨】
 本研究は、光ファイバセンサを活用した線的あるいは面的な斜面崩壊モニタリングシステムの開発を行うとともに、表面変状および降雨浸透モニタリングによる内部応力の変化を考慮したリアルタイムでの斜面の安定度評価による総合的な斜面崩壊予測手法の開発を目標として実施するものである。
 本研究では、実斜面に光ファイバセンサを設置して斜面表層崩壊の変状挙動を把握し、計測データに基づく表層崩壊の安定度評価の考え方について整理し、運用マニュアルおよび斜面表層崩壊モニタリング用標準ソフトウェアを開発した。また、降雨浸透モニタリングを併用し光ファイバセンサによる表層崩壊モニタリングでの崩壊予測を支援する考え方について提案した。

キーワード:光ファイバセンサ、表層崩壊、降雨浸透、モニタリング、安定度評価


2.8 岩盤斜面の調査・計測・ハザード評価技術の調査(1)

  研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
  研究期間:平14~平17
  担当チーム:材料地盤研究グループ(地質)
  研究担当者:佐々木靖人、倉橋稔幸、矢島良紀
【要旨】
本研究では、個別斜面の危険度マップの作成や要対策箇所の抽出を目的として、エアートレーサー試験や、物理検層を利用した岩盤斜面内部の劣化部検出方法を開発し、一部を調査マニュアルとしてとりまとめた。また、レーザーを用いた斜面の三次元測量や三次元弾性波トモグラフィ-を実施することにより、岩盤斜面の詳細な記載と、弾性波速度の変化から岩盤斜面の劣化部を定量的かつ面的にマッピングできるようになり、危険な劣化部を抽出できるようになった。

キーワード:岩盤斜面、劣化部、エアートレーサー試験、物理検層、三次元弾性波トモグラフィ


2.9 岩盤斜面の調査・計測・ハザード評価技術の調査(2)

  研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
  研究期間:平14~平17
  担当チーム:土砂管理研究グループ(地すべり)
  研究担当者:藤澤和範(上席)、浅井健一
【要旨】
 本研究では、振動計測による不安定岩盤ブロックの抽出手法の検討を以下に示す現地計測及び計測結果の解析により行った。(1)岩盤ブロックを人工的に不安定化させながら計測を行った結果、岩盤ブロックが不安定化すると振幅が大きくなることが示された。(2)実際の岩盤斜面において計測を行ったところ、安定ブロックと不安定ブロックを区別でき、その中でも特に不安定なブロックを抽出することができた。(3)また、計測結果に基づいて岩盤ブロックの亀裂を再観察した結果、岩盤ブロックがさらに小ブロックに分かれて振動していることを明らかにできた。(4)岩盤接着工が実施された斜面において計測を行った結果、岩盤接着工によって岩盤が安定化した状況が振動の変化によって捉えられた。これらの結果は岩盤斜面の振動計測が不安定岩盤ブロックの抽出に有効であるとともに、対策工の効果判定に有効な手法となりうることを示したものである。以上の結果をもとに、本手法の計測・解析の方法と留意点等を示すマニュアル(案)をとりまとめた。

キーワード:岩盤斜面、常時微動、振動


2.10 光ファイバセンサによる地すべり挙動調査

  研究予算:運営費交付金(治水勘定)
    研究期間:平14~平17
  担当チーム:土砂管理研究グループ(雪崩・地すべり研究センター)
  研究担当者:花岡正明、丸山清輝、小嶋伸一
【要旨】
 地すべり災害を防止・軽減するために重要な地すべり挙動の把握において、現在最も有効な地表面の亀裂・ひずみを計測する伸縮計には、(1)挙動が顕著でない時点で適切な伸縮計配置が難しい、(2)積雪期の地表面計測が困難等の重大な課題がある。これに対し光ファイバセンサを活用した地すべりの面的挙動調査手法等の開発について研究してきたが、(1)に対し直交配置法による光ファイバ直接埋設方式により、(2)に対しては光ファイバと機械的メカニズムを組み合わせた伸縮計を開発し、現場への導入が可能となる有効な成果を得ることができた。

キーワード:光ファイバ伸縮計、地すべり挙動調査