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2.治水安全度向上のための河川堤防の質的強化技術の開発

研究期間:平成18年度〜22年度
プロジェクトリーダー:技術推進本部長 見波潔
研究担当グループ:技術推進本部(物理探査技術担当)、材料地盤研究グループ(土質)、水工研究グループ(河川・ダム水理)

1.研究の必要性

 最近、気候変動に起因する集中豪雨の発生頻度の増大等により、計画規模を超える洪水や、整備途上の河川における計画規模以下の洪水による河川堤防の破堤に伴う被害が増加しており、堤防の質的強化による治水安全度の向上が急務となっている。このため、内部構造の不確実性が大きい河川堤防の弱点を効率的かつ経済的に抽出する手法や、浸透(堤体浸透・基盤漏水)および侵食に対する効果的な堤防強化対策など、河川堤防の質的強化技術の開発が強く望まれている。

2.研究の範囲と達成目標

 本重点プロジェクト研究では、全国で実施されている河川堤防概略・詳細点検のデータベースの分析や先端的な統合物理探査技術の実用化により、堤防弱点箇所の抽出制度を向上させるとともに、抽出された堤防弱点箇所に対し、現場条件や被災形態に応じ、確実な効果が得られる経済的な対策選定手法を提案することを研究の範囲とし、以下の達成目標を設定した。

(1)

河川堤防の弱点箇所抽出手法の高度化
(「河川堤防の弱点箇所抽出マニュアル」「統合物理探査技術を用いた河川堤防内部構造探査マニュアル」の作成)

(2)

浸透に対する堤防強化対策の高度化
(「浸透に対する河川堤防の質的強化対策選定の手引き」「樋門・樋管構造物周辺堤防の空洞対策選定マニュアル」の作成)

(3)

侵食に対する堤防強化対策の提案
(「侵食に対する河川堤防の強化対策の手引き」の作成)

3.個別課題の構成

 本重点プロジェクト研究では、上記の目標を達成するため、以下に示す研究課題を設定した。
   (1) 河川堤防の弱点箇所抽出・強化技術に関する研究(平成18〜20年度)
   (2) 統合物理探査による河川堤防の内部構造探査技術の開発(平成18〜20年度)
   (3) 樋門・樋管構造物周辺堤防の空洞対策選定手法に関する研究(平成18〜20年度)
   (4) 河川堤防の耐侵食機能向上技術の開発(1)(平成18〜22年度)
   (5) 河川堤防の耐侵食機能向上技術の開発(2)(平成18〜22年度)

4.研究の成果

 本重点プロジェクト研究の個別課題の成果は、以下の個別論文に示すとおりである。なお、「2.研究の範囲と達成目標」に示した達成目標に関して、平成18年度に実施した研究と今後の課題について要約すると以下のとおりである。

 

(1)河川堤防の弱点箇所抽出手法の高度化

1)河川堤防の弱点箇所抽出手法の高度化

 河川堤防の詳細点検が進むにつれ、調査結果に応じた対策手法の確立が急務となっている。18年度は、浸透に対する堤防強化対策のうち、矢板工法(基盤漏水対策)に関し、表のり面被覆工法(遮水シート)と組み合わせて使用する場合の境界部の評価について模型実験により検討を行った。実物大に近い堤防模型(高さ2.5m)を用いて、洪水を想定した外水位と降雨を与えた結果、堤体内水位の上昇を抑える一定の対策効果が確認された。
 この模型実験に対し、「河川堤防の構造検討の手引き」に基づいて実施した二次元浸透流解析では、堤体内水位を実験値より低めに評価する結果となった。そこで、矢板と遮水シートの境界要素を設定し、その透水係数の条件を調整すると、解析による水位は実験値に近似することから、堤防強化対策を組み合わせて使用する場合は、両者の境界条件を適切に設定しなければならない可能性があることがわかった。
 なお、18年度は堤体内部構造、基礎地盤に応じた河川堤防強化工法の選定手法の素案の提案には至らなかったため、19年度はこれらの結果を基に選定手法の素案の提案を行う予定である。

 

2)統合物理探査による堤防弱点箇所の効率的検出手法の開発

 河川堤防の改修補強を経済的・効果的に進めるためには、要改良区間を効率的に抽出することが必要とされる。堤体は外見的には均質に見えても、内部構造は横断方向・縦断方向ともに不均質である場合が多い。従来の連続的目視調査やスポット的ボーリング調査では、このような不均質構造を検出することは困難であった。そこで、非破壊調査手法である物理探査手法を組み合わせて適用し、堤体および支持地盤内の弱点箇所を経済的かつ高確度で把握する現地探査技術を開発・普及することを目標とし、その適用性・評価基準等について主として現地適用実験に基づいて検討を加えた。現地適用実験を実施したのは、小貝川、江戸川、千曲川である。作業性や機器の操作性、構造再現性を評価することを目的とした適用実験であるため、原則として現地計測から解析・断面解釈までを独自に実施した。
 現地適用実験の結果、牽引型比抵抗探査法と土木研究所が開発したランドストリーマーを活用した高精度表面波探査法が現地作業性および異常部の検出能力に優れていることがわかった。特に千曲川堤防では、堤体および支持地盤に高比抵抗・中S波速度物性を示す異常部が検出されたが、その出現位置は、漏水被害が発生した位置あるいは旧河道が存在する部分とよく対応していた。
 現地適用実験により、両探査で得られる比抵抗値とS波速度値を指標とすることで堤体および支持地盤の浸透特性・強度特性を判定することが可能であることを示すことができた。一連の実験を踏まえ、「統合物理探査技術を用いた河川堤防内部構造探査マニュアル」の素案を作成した。今後、探査手法の適用性に関する検証事例を増やすとともに、マニュアル(素案)の充実を図る予定である。

(2)浸透に対する堤防強化対策の高度化

1)河川堤防の浸透対策選定手法に関する調査

 河川堤防の詳細点検が進むにつれ、調査結果に応じた対策手法の確立が急務となっている。18年度は、浸透に対する堤防強化対策のうち、矢板工法(基盤漏水対策)に関し、表のり面被覆工法(遮水シート)と組み合わせて使用する場合の境界部の評価について模型実験により検討を行った。実物大に近い堤防模型(高さ2.5m)を用いて、洪水を想定した外水位と降雨を与えた結果、堤体内水位の上昇を抑える一定の対策効果が確認された。
  この模型実験に対し、「河川堤防の構造検討の手引き」に基づいて実施した二次元浸透流解析では、堤体内水位を実験値より低めに評価する結果となった。そこで、矢板と遮水シートの境界要素を設定し、その透水係数の条件を調整すると、解析による水位は実験値に近似することから、堤防強化対策を組み合わせて使用する場合は、両者の境界条件を適切に設定しなければならない可能性があることがわかった。
  なお、18年度は堤体内部構造、基礎地盤に応じた河川堤防強化工法の選定手法の素案の提案には至らなかったため、19年度はこれらの結果を基に選定手法の素案の提案を行う予定である。

 

2)樋門・樋管構造物周辺堤防の空洞対策選定手法に関する調査

 河川堤防を横断して設けられる樋門・樋管構造物周辺堤防では空洞やゆるみが生じる事例が多く、これらは洪水時の浸透に対する堤防の安全性に重要な影響を及ぼすため、効果的な対策工法の確立が求められている。18年度は、樋管周辺の空洞調査結果と健全度の関係の評価を行うため、既存の樋管におけるゆるみ等の発生状況を把握するための現地調査を行った。また、樋管周辺の空洞・ゆるみの発生状況ならびに浸透に対する安全性を把握するための模型実験を行った。
  現地調査および模型実験により、樋管下の空洞や樋管隅角部の上方でのゆるみの存在を推定するととともに、模型実験により堤体材の吸い出しによるのり面の直下で大きなゆるみ領域の発生を推定し、ゆるみ・空洞発生時のパイピングに対する安定性(健全性)について評価することができた。
  なお、18年度は健全度に応じた対策選定手法(素案)の提案には至らなかったため、今後はゆるみ・空洞の発生に及ぼす土質等の影響についても調査し、これらを元にした対策手法について検討を進める予定である。

(3)侵食に対する堤防強化対策の提案

1)堤体条件と耐侵食機能の関係調査

 堤防侵食破壊の支配要因と堤体特性に応じた侵食対策工法の耐侵食機能を把握することを目的として、過去の堤防被災の事例分析より越水による侵食が主な破堤原因であることを確認するとともに、堤体材料の特性として締固度等の耐侵食機能に及ぼす影響を水理実験によって概略把握した。さらに、対策工を検討するに当たって、裏のり面に働く揚圧力が重要な要素であることを水理的に確認した。19年度は、外力条件や対策工の安定性について水理的に検討する予定である。

 

2)浸透対策工法の耐侵食機能改善効果の調査

 実際の破堤現象は、浸透作用と越水作用の複合的要因により発生する。一方で、河川堤防の質的整備(堤防強化)として、浸透対策が実施されているところであり、浸透対策の裏のりの耐侵食機能への影響を把握することを目的として、断面拡大工法、ドレーン工法などを対象にその効果を整理するとともに、短繊維混合補強土を用いた浸透対策の耐侵食機能向上効果について実験的検討を行った。
  その結果、断面拡大工法やドレーン工法の適用により耐侵食機能の向上は期待されるものの、裏のり面の一部の不陸等の存在によって、向上効果がほとんど無いケースもあることが確認された。
  短繊維混合補強土工法については、耐侵食性能の強化、透水性の確保等の改良が必要なことから、18年度は基礎的な検討を実施した。耐侵食性能を強化させるための固化材等の混合条件をかえて室内透水試験を行ったところ、固化材のみでは堤防裏のり面に必要な透水性が確保されず、透水性を改善するための添加材の混合が必要なことがわかった。また、実験水路を利用した侵食実験では、固化材と添加材を混合することにより、耐侵食効果の向上が期待できることが確認された。

個別課題の成果

2.1 河川堤防弱点箇所抽出・強化技術に関する研究

研究予算:運営費交付金(治水勘定)
研究期間:平18〜平20
担当チーム:材料地盤研究グループ(土質)
研究担当者:小橋秀俊、古本一司、齋藤由紀子

【要旨】
 現在の堤防の多くは古くから逐次強化を重ねてきた長い治水の歴史の産物であり、堤防延長、堤防断面については相当の整備がなされてきているが、現在進められている堤防詳細点検によると、3割程度が浸透破壊に対し必要な安全性を確保しないことが予想されており、そうした弱点を効果的に把握し、強化する技術の確立が求められている。18年度は、漏水等の被災が発生した河川堤防の調査並びに上下流の影響を把握するための三次元浸透流解析を行い、現状の安定度評価手法の課題抽出および上下流の影響を把握した。また、浸透対策工法として矢板工法と表のり面被覆工法と組合わせて使用する場合の効果を把握した。

キーワード:河川堤防、浸透、漏水、安定度評価、浸透対策工法


2.2 統合物理探査による河川堤防の内部構造探査技術に関する研究

研究予算:運営費交付金(治水勘定)
研究期間:平18〜平20
担当チーム:技術推進本部 特命事項担当
研究担当者:稲崎富士

【要旨】
 河川堤防の改修補強を経済的・効果的に進めるためには,要改良区間を効率的に抽出することが必要とされる.堤体は外見的には均質に見えても,内部構造は横断方向・縦断方向ともに不均質である場合が多い.従来の連続的目視調査やスポット的ボーリング調査では,このような不均質構造を検出することは困難であった.そこで,非破壊調査手法である物理探査手法を組み合わせて適用し,堤体および支持地盤内の弱点箇所を経済的かつ高確度で把握する現地探査技術を研究開発対象とし,その適用性・評価基準等について検討した.その結果,牽引型比抵抗探査法とランドストリーマー方式表面波探査法を組み合わせて適用することで,浸透性・強度的に問題のある区間を効率的に抽出できることがわかった.

キーワード:河川堤防,牽引型比抵抗探査,ランドストリーマー,表面波探査,S波速度


2.3 樋門・樋管構造物周辺堤防の空洞対策選定手法に関する研究

研究予算:運営費交付金(治水勘定)
研究期間:平18〜平20
担当チーム:材料地盤研究グループ(土質)
研究担当者:小橋秀俊、古本一司、齋藤由紀子

【要旨】
 河川堤防を横断して設けられる樋門・樋管構造物の周辺では空洞やゆるみが生じる事例があり、これらは洪水時の浸透に対する堤防の安全性に重要な影響を及ぼすため、効果的な対策工法の確立が求められている。18年度は、既存の樋管におけるゆるみの発生状況を把握するための現地調査および樋管周辺の空洞・ゆるみの発生状況と浸透に対する安全性を把握するための模型実験を行った。その結果、樋管下の空洞や樋管隅角部の上方でのゆるみの存在が推定され、さらには堤体材の吸い出しによるのり面の直下で大きなゆるみ領域の発生を確認した。また、ゆるみ・空洞発生時のパイピングに対する安定性(健全性)について評価することができた。

キーワード:河川堤防、樋管、浸透、漏水、空洞


2.4 河川堤防の耐侵食機能向上技術の開発(1)

研究予算:運営費交付金(治水勘定)
研究期間:平18〜平20
担当チーム:水工研究グループ(河川・ダム水理)
研究担当者:箱石憲昭、坂野章

【要旨】
 近年、現況の河川の能力を超える洪水による河川堤防の破堤に伴う被害の増加が懸念され、堤防の質的強化に向けた検討が必要となっている。本年度は過去の堤防被災の事例分析や堤防に関する研究のレビューによって、破堤の主な原因が越水による堤防裏のり面の侵食であることや懸案事項等を確認し、今後の研究のアプローチや検討方針等についての方向性を検討した。また、水理的検討の一環として堤防の裏のり面に働く外力として揚圧力の影響について水理模型実験により調査した。

キーワード:河川堤防、破堤、侵食、強化対策、水理的検討


2.5 河川堤防の耐侵食機能向上技術の開発(2)

研究予算:運営費交付金(治水勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:材料地盤研究グループ(土質)
研究担当者:小橋秀俊、古本一司、齋藤由紀子

【要旨】
 近年、集中豪雨の発生頻度の増大等による計画規模を超えるような洪水の発生により河川堤防の破堤に伴う被害の増加が懸念され、河川堤防の質的強化に向けた検討が必要となっている。破堤現象は、浸透作用と越水作用の複合的要因により発生することがあるが、本研究では現在質的整備として実施されている浸透対策の裏のりの耐侵食機能への影響を把握することを目的として検討を行っている。18年度は、ドレーン工法などの浸透対策工法の耐侵食機能向上効果を把握するとともに、短繊維混合補強土を用いた浸透対策の耐侵食機能向上効果について実験的検討を行った。

キーワード:河川堤防、破堤、侵食、浸透対策、模型実験