土木研究所を知る

  • HOME
  • 研究成果・技術情報
3.大地震に備えるための道路・河川施設の耐震技術

研究期間:平成18年度〜22年度
プロジェクトリーダー:耐震研究グループ長 松尾修
研究担当グループ:耐震研究グループ(振動、耐震)、構造物研究グループ(基礎)、水工研究グループ(ダム構造物)

1.研究の必要性

 最近大きな地震が頻発し、再び活動期に入ったとも言われている。今後、東海・東南海・南海地震、首都圏直下地震、宮城県沖地震など、人口・資産の集積する地域で大地震が発生する可能性が高く、それぞれの地震による想定被害額は数10兆円から110兆円などと推定されている。政府は、これらの地震に対して、今後10年間で人的被害・経済被害を半減させる「地震防災戦略」を決定している(中央防災会議、平成17年3月)。
  これを実現するためには、道路をはじめとするライフライン施設、ゼロメートル地帯等を津波浸水から守る河川施設などを対象に、既設構造物の耐震診断・補強技術、および震災後に迅速に機能回復する技術を優先的に開発・改良することが必要である。

2.研究の範囲と達成目標

 本重点プロジェクト研究では、道路・河川の主要構造物を対象に、既設構造物の耐震診断・補強技術、および震災後に迅速に機能回復する技術を開発・改良することを研究の範囲とし、以下の達成目標を設定した。
   (1) 既設道路橋の耐震診断・補強技術の開発
   (2) 山岳盛土の耐震診断・補強技術の開発
   (3) 道路橋の震後早期機能復旧技術の開発
   (4) 既設ダムの耐震診断・補修・補強技術の開発
   (5) 河川構造物の耐震診断・補強技術の開発


3.個別課題の構成

 本重点プロジェクト研究では、上記の目標を達成するため、以下に示す研究課題を設定した。
   (1) 補強対策が困難な既設道路橋に対する耐震補強法の開発(平成18〜21年度)
   (2) 既設道路橋基礎の耐震性能評価手法に関する研究(平成18〜20年度)
   (3) 液状化地盤上の橋台の耐震補強技術に関する試験調査(平成18〜22年度)
   (4) 山岳道路盛土の耐震補強技術に関する試験調査(平成18〜22年度)
   (5) 震災を受けた道路橋の応急復旧技術の開発に関する試験調査(平成18〜22年度)
   (6) 記憶型検知センサーを用いた地震被災度の推定手法に関する研究(平成15〜18年度)
   (7) ダムの健全性評価に関する研究(平成16〜19年度)
   (8) コンクリートダムの補修・補強に関する研究(平成17〜19年度)
   (9) コンクリートダムの地震時終局耐力評価に関する研究(平成18〜22年度)
   (10) 強震時の変形性能を考慮した河川構造物の耐震補強技術に関する調査(平成18〜22年度)
 平成18年度は上記10課題すべてを実施している。

4.研究の成果

 本重点プロジェクト研究の個別課題の成果は、以下の個別論文に示すとおりである。なお、「2.研究の範囲と達成目標」に示した達成目標に関して、平成18年度に実施してきた研究と今後の課題について要約すると以下のとおりである。


(1)既設道路橋の耐震診断・補強技術の開発

1) 既往の地震による長大橋や特殊橋梁の被災事例をもとに長大橋・特殊橋梁の耐震構造上の重要部位を抽出するとともに、長大橋及び特殊橋梁を構成する部材ごとに耐震性能を評価する手順を定めた。
2) 昭和55年以前道示、昭和55年道示および平成2年道示で設計されたRC橋脚及び橋脚基礎を対象に現行基準による耐震性能の試算を行い、既設構造物の耐震性能のランク分類を行うために必要な基礎資料を得た。
3) 鋼トラス橋、鋼アーチ橋を対象に、ダンパーを設置した場合の制震効果解析を行い、ダンパーの最適配置およびその応力低減効果を明らかにした。
4) 道路橋の基礎について、被災事例、耐震設計手法および施工技術の変遷を調査し、耐震余裕度が相対的に小さいと考えられる基礎の条件を整理した.また,既存データベースを用いた分析によれば耐震余裕度が相対的に小さい可能性が高い基礎の数は非常に多いが、既存データベースにはその中から補強の優先度を分類するために必要な情報が含まれていない。今後、新規データベースの構築するための検討と耐震余裕度の区分の細分化を行う必要がある。
5) 液状化地盤上の橋台の地震時挙動を模型実験および数値解析により調べた結果、基礎に生じる断面力で最も支配的な作用力は橋台躯体の慣性力であること、また橋台の変位を照査するにあたっては橋台側面土の摩擦力や液状化層下の非液状化層の剛性低下を適切に評価する必要があることを明らかにした。

(2)山岳盛土の耐震診断・補強技術の開発

1) 新潟県中越地震における山岳道路盛土の被害事例を分析した結果、大規模な崩壊に至った盛土は、盛土高さが概ね10m以上、地山勾配は10°以上であることがわかった。
2) 模型実験を実施した結果、盛土をよく締め固めることは耐震性向上にきわめて有効であること、盛土内の浸透水位を低下させることによっても被害程度を低減できることがわかった。

(3)道路橋の震後早期機能復旧技術の開発

1) これまでに開発した曲げ破壊するRC橋脚に対する地震被災度判定手法を,せん断破壊する橋脚や地震被災を補修したRC橋脚に対する振動台実験結果にも適用し,これらに対する適用性を検証した。
2) 被災度判定システムを構築し,これを組み込んだ被災度判定センサーを試作し,実橋梁に設置した。
3) 地震により被災したRC橋脚の応急復旧を1日程度以内に短縮する方法として,速硬性のある断面修復材と接着剤の活用する方法と硬化を要しないシートの機械的な定着方法を考案した。
4) 速硬性ある断面修復材や接着剤を用いて炭素繊維シート巻立てにより補修したRC橋脚の振動台実験により,補修により被災前に近い耐震性能を確保できることを検証した。

(4)既設ダムの耐震診断・補修・補強技術の開発

1) 大規模地震によるフィルダム堤体における損傷形態である「すべり」と「沈下」に着目した、地震後の健全性評価方法として、トレンドモデルを導入したGPSシステムと大変形挙動計測システムを組み合わせた変形挙動計測方法の提案を行った。
2) 大規模地震により引張亀裂が発生した重力式コンクリートダム堤体の強度の回復・増強を目的とした補修工法として、断面増厚工(腹付け工)とアンカー工を取り上げ、分布型クラックモデルを用いた非線形解析を行い、引張亀裂の発生、応答加速度・速度、応力分布などの観点からその補修効果を明らかにした。また、コンクリートダム堤体内にアンカー体を定着することを想定し、実ダムから採取したコンクリートコアを対象にアンカー体引抜き試験を実施し、コンクリートとアンカー体の周面摩擦抵抗を評価した。
3) 重力式コンクリートダムの大規模地震による亀裂貫通後の上部分離ブロックの動的挙動(揺動、滑動)を個別要素法により再現するために、柱状コンクリート供試体に対する振動台実験の挙動同定解析および引張亀裂面を設けたコンクリート供試体による一面せん断試験を行って、個別要素解析に用いる亀裂面の物性値を設定した。そのうえで、大規模地震時における、貯水位がない堤高100mの重力式コンクリートダムモデルの動的挙動を個別要素解析により明らかにした。

(5)河川構造物の耐震診断・補強技術の開発

1) 土堤を対象とした耐震対策のうち,最も多用されている固化改良を対象とし,平成7年の耐震点検以降実施された耐震対策がレベル2地震動に対しても有効であることを実験的に確認した.また,耐震性能照査法の高度化に不可欠な,既往地震における河川堤防の被害事例の収集・整理した。
個別課題の成果

3.1 補強対策が困難な既設道路橋に対する耐震設計法の開発

研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
研究期間:平18〜平21
担当チーム:耐震研究グループ(耐震)
研究担当者:運上茂樹(上席)、杉本健、Mohammd Reza Salamy

【要旨】
 平成17年度から平成19年度まで緊急輸送道路の橋梁耐震補強3箇年プログラムが実施されているところであるが、今後の効率的な震災対策事業に資するためには、本3箇年プログラムの技術的フォローアップを行うとともに、現場の個別条件を加味した性能評価の高度化、耐震水準を考慮した段階的対策方策、対策が困難となる橋に対する新しい工法の開発が必要とされている。平成18年度は、既設長大橋・特殊橋梁の耐震性能の評価方法の高度化を図るとともに、既設RC橋脚および既設基礎の耐震性能のランク分類、および特殊橋梁に対する制震補強効果の解析を行った。

キーワード:長大橋、特殊橋梁、耐震性能、耐震補強


3.2 既設道路橋基礎の耐震性能評価手法に関する研究

研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
研究期間:平18〜平20
担当チーム:構造物研究グループ(基礎)
研究担当者:中谷昌一、白戸真大

【要旨】
 本研究は、将来の道路橋基礎の耐震補強プログラムの策定を念頭に置いたものである。現状の耐震補強戦略を踏まえると、道路橋基礎の耐震補強戦略は、既設道路橋基礎の耐震性能水準を区分した上で、優先度を設けた段階的な対策実施が必要であることを明確にした。次に、被災事例の分析、設計基準および施工技術の変遷を調査し、相対的に耐震余裕度の小さいと考えられる基礎の条件を抽出した。さらに、既設道路橋基礎の建設年代や基礎種別を調査したところ、施工技術や設計基準が未整備であった古い年代に設置された基礎の数は多く、今後は、既設道路橋基礎が具備すべき耐震性能、評価指標・基準、検証方法、補強の必要性・優先度の判断基準、補強点検項目の検討が必要であることを示した。

キーワード:道路橋ストック、基礎、耐震、維持管理


3.3 液状化地盤上の橋台の耐震補強技術に関する試験調査

研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
研究期間:平18〜平21
担当チーム:耐震研究グループ(振動)
研究担当者:杉田秀樹,高橋章浩,谷本俊輔

【要旨】
 本研究は,液状化に対する橋台の耐震診断を可能にする合理的な永久変形量評価手法を提案し、これを活用した既設橋台の過大な変位を抑制する地盤改良や構造的補強による耐震補強技術の合理的な選定・性能評価手法を提案することを目的としている。初年度である平成18年度は、橋台の安定性を決定する作用力の性状等を数値解析並びに模型実験により詳細に検討した。

キーワード:橋台,液状化,有限要素解析,遠心模型実験


3.4 山岳道路盛土の耐震補強技術に関する試験調査

研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:振動チーム
研究担当者:杉田 秀樹、佐々木哲也、水橋 正典

【要旨】
 2004年新潟県中越地震では山岳道路盛土に多大な被害が生じ、長期間にわたり道路交通機能が失われた。このため、山岳道路盛土についても道路交通機能の低下を最小限に抑制するとともに、被災後の機能回復を迅速に行う必要があり、道路の機能および道路盛土の修復性を考慮した耐震診断技術および耐震対策技術の開発が求められている。そこで、本研究は、山岳道路盛土の合理的で経済的な耐震診断法・耐震対策工の設計法を提案することを目的に実施するものである。平成18年度は、山岳道路盛土の耐震性に及ぼす諸条件を検討するために、被害事例分析および動的遠心模型実験を行った。被害事例分析により、大規模な崩壊を示した盛土の盛土高さ、地山勾配等の傾向を明らかにした。また、動的遠心模型実験の結果より、盛土の締固め度が低く、盛土のり尻の浸透水位が高いほど、大規模な流動性崩壊が生じやすいことを明らかにした。さらに、実験結果を対象に、盛土の耐震性評価手法としての円弧すべり法およびニューマーク法の適用性を検討した。

キーワード:道路盛土、地震、遠心模型実験


3.5 震災を受けた道路橋の応急復旧技術の開発に関する試験調査

研究予算:運営交付金(道路勘定)
研究期間:平18〜21
担当チーム:耐震研究グループ(耐震)
研究担当者:運上茂樹,Mohammd Reza、Salamy,堺淳一

【要旨】
 被災発見後に余震の影響を適切に考慮して速やかに被災診断を行うとともに,即効性のある復旧工法を用いて迅速かつ合理的に機能回復を図るための応急復旧技術の開発が必要とされている。今年度は,鉄筋コンクリート橋脚を対象に余震の影響評価および即効性のある復旧工法の効果の評価のために振動台加震実験を行った。これより,本震と同程度の強度を持つ余震が生じた場合,橋脚の応答は10%程度増加するが耐震性能にはほとんど影響がないこと,即効性のある復旧工法を用いることで,1日以内程度で地震被災前の耐震性能を回復できることを示した。

キーワード:橋,地震被害,応急復旧,鉄筋コンクリート橋脚,振動台加震実験


3.6 記憶型検知センサーを用いた地震被災度の推定手法に関する研究

研究予算:運営交付金(一般勘定)
研究期間:平15〜19
担当チーム:耐震研究グループ(耐震)
研究担当者:運上茂樹,Mohammd Reza、Salamy,堺淳一

【要旨】
 大規模地震後の構造物の被災程度,継続使用の可能性などの判断は,専門家による外観からの目視判定に頼らざるを得ないのが現状であり,専門家でなくても構造物の損傷を迅速かつ精度よく検知・判定できる技術の開発が必要とされている。これまでに,曲げ破壊するRC柱を対象に加速度センサを用いた被災度判定センサを開発し,地震による被害を判定する手法を構築してきたが,今年度は本手法の適用範囲を拡げることを目的として,せん断破壊するRC柱および曲げ破壊後に補修されたRC柱を対象として振動台加震実験を行った。これより,こうした構造物でも損傷の進展に伴い,固有周期が増加するために本手法に基づく被災度判定が可能であることを示した。また,本手法を組み込んだ被災度判定システムを構築し,これを実橋梁に適用した。

キーワード:地震被害,被災診断,鉄筋コンクリート柱,振動台加震実験


3.7 ダムの健全性評価に関する研究

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平16〜平19
担当チーム:水工研究グループ(ダム構造物)
研究担当者:山口嘉一、佐々木隆、小堀俊秀、佐々木晋、林 直良

【要旨】
 厳しい財政状況下における完成ダム数の増加により、ダムの安全管理コストの縮減および省人化を達成しなければならないことに加えて、既設ダムの老朽化、CFRD(Concrete Face Rockfill Dam)や台形CSG(Cemented Sand and Gravel)ダムといった新型式のダムの登場によるダム挙動の複雑化により、従来のダムの安全管理方法では適切な安全管理や健全性評価が行えない場合が想定される。また、地震時については、レベル2(L2)地震動などの大規模地震時の損傷発生を考慮した安全管理や健全性評価が必要である。平成18年度は、ダムの安全管理の新計測方法としてGPSと表面変形計測器の適用性、堤体コンクリートの健全性評価、大規模地震によるフィルダムの計測・評価方法について検討した。
キーワード:ダム、CFRD、表面変形計測器、GPS、健全性評価、安全管理


3.8 コンクリートダムの補修・補強に関する研究

研究予算:運営費交付金(治水勘定)
研究期間:平17〜平19
担当チーム:水工研究グループ(ダム構造物)
研究担当者:山口嘉一、佐々木隆、小堀俊秀

【要旨】
 大規模地震時に対するコンクリートダムの耐震性能照査を実施した場合、地震動特性、堤高、堤体形状等によっては堤体へのクラック発生の可能性が示唆されている。コンクリートダム堤体に発生したクラックについては、漏水防止を目的とした補修事例は多数あるが、強度を回復することを目的とした事例は少なく、未だ対策方法は確立されていない。また、現在のダムの設計法を規定している河川管理施設等構造令施行前のダムに関しては、耐震性能向上のための効率的な補強方法が望まれている。このため、コンクリートダム堤体の強度の回復・増強を目的とした補修・補強方法の開発が必要である。
 平成18年度は、コンクリートダム堤体に対する補修・補強実績の整理・分析を行い、アンカー工、堤体断面増厚による補修・補強対策を対象にして、解析的、実験的な対策効果の検討を実施し、堤体強度の回復・増強に関する対策方法を検討した。

キーワード:コンクリートダム、補修、腹付け工、アンカー工、非線形解析


3.9 コンクリートダムの地震時終局耐力評価に関する研究

研究予算:運営費交付金(治水勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:水工研究グループ(ダム構造物)
研究担当者:山口嘉一、佐々木隆、小堀俊秀、佐々木晋

【要旨】
 大規模地震がコンクリートダム近傍で発生することを想定した場合、亀裂が貫通あるいは貫通に近い状態まで生じる可能性がある。そのため、亀裂貫通後の上部分離ブロックの転倒、滑動といった挙動形態を考慮した、大規模地震時における終局的安定性を評価する方法の開発が必要である。本課題は、亀裂貫通後の堤体上部分離ブロックの動的挙動を模型実験により把握し、数値解析による挙動再現を通して、コンクリートダムの地震時終局耐力の評価手法を提案するものである。平成18年度は、亀裂貫通堤体の安全性を個別要素解析により検討した。個別要素解析に先だって、亀裂貫通模型の動的挙動の同定解析及び引張亀裂面を設けたコンクリート供試体による一面せん断試験を行い、ダムモデルの個別要素解析に用いる物性値を設定した。さらに、堤体高標高部の上部分離ブロックを対象にしたモデルと、フィレットからの亀裂による上部分離ブロックを対象にモデルを作成し、それぞれの主要運動モードを転倒と滑動として大規模地震時の安全性について検討を行った。

キーワード:重力式コンクリートダム、亀裂貫通、個別要素解析、終局耐力


3.10 強震時の変形性能を考慮した河川構造物の耐震補強技術に関する調査

研究予算:運営費交付金(治水勘定)
研究期間:平18〜平21
担当チーム:耐震研究グループ(振動)
研究担当者:杉田秀樹,高橋章浩,谷本俊輔

【要旨】
 本研究は,河川構造物の耐震補強技術,特に,強震時の変形性能を考慮した河川構造物の耐震補強技術の開発を目的として実施するものである。初年度である平成18年度は,土堤を対象とした耐震対策のうち,最も多用されている固化改良を対象とし,平成7年の耐震点検以降実施された耐震対策がレベル2地震動に対しても有効であることを実験的に確認した。また,耐震性能照査法の高度化に不可欠な,既往地震における河川堤防の被害事例の収集・整理も行った。

キーワード:河川構造物,土堤,格子状固化改良工法,遠心模型実験,事例収集