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5.寒冷地臨海部の高度利用に関する研究

研究期間:平成18年度〜22年度
プロジェクトリーダー:寒地水圏研究グループ長
研究担当グループ:寒地水圏研究グループ(寒冷沿岸域、水産土木)

1.研究の必要性

 北海道は亜寒帯に属し、港湾・漁港を含む沿岸域は寒冷であるために利用上の課題を種々有している。まず、冬期においては積雪寒冷な気候に起因し、利用者による荷役・漁労の作業効率の低下等の課題を抱えている。こうした課題を解決するための港内防風雪施設に関し、その具体的な性能評価法を確立する必要がある。また、オホーツク海には毎年1〜3月にかけて流氷が接岸しており、藻場機能を備えた港湾施設や海洋深層水汲み上げパイプラインなどの各種施設への被害が懸念される。このため、海氷の特性を明らかにしつつ、海氷の作用力推定法を確立し、実用的で建設・維持管理コストの低廉な海氷制御構造物を開発する必要がある。加えて、津波発生時の海氷の構造物等への作用力を明らかにし、地域の防災対策の高度化に資することが必要である。一方、北海道は全国一の水産物水揚量を誇り、周辺海域は豊かな漁場となっている。これらの水産物の一部は、港湾・漁港の静穏域を利用した一時的な保管が行われているが、水質や底質等の環境悪化への対応技術が求められているほか、消波構造物の施設整備に際して藻場機能や魚介類の生息場・産卵場機能、水質浄化機能等の多面的機能を発現させる技術が必要とされている。

2.研究の範囲と達成目標

 本重点プロジェクト研究では、積雪寒冷地における港湾・漁港等臨海部の高度利用を図るために、港湾等利用者の荷役・漁労の作業環境を改善するための港内防風雪施設の効果、冬季に来襲する流氷が各種沿岸施設へ与える影響や海氷を制御するための構造物の開発、臨海部の水環境悪化への対応技術や漁港構造物等に藻場機能等の多面的機能を発現させる技術を対象として、以下の達成目標を設定した。
   (1) 港内防風雪施設の多面的効果評価法の開発
   (2) 沿岸、海底構造物への海氷の作用力推定法の提案
   (3) 津波来襲時に海氷がもたらす作用力推定法の提案
   (4) 港内水域の水質・底質改善と生物生息場機能向上手法の提案

3.個別課題の構成

 本重点プロジェクト研究では、上記の目標を達成するため、以下に示す研究課題を設定した。
   (1) 寒冷地臨海施設の利用環境改善に関する研究(平成18〜20年度)
   (2) 海氷の出現特性と構造物等への作用に関する研究(平成18〜22年度)
   (3) 寒冷地港内水域の水産生物生息場機能向上と水環境保全技術の開発(平成18〜22年度)

4.研究の成果

 本重点プロジェクト研究の個別課題の成果は、以下の個別論文に示すとおりである。なお、「2.研究の範囲と達成目標」に示した達成目標に関して、平成18年度に実施してきた研究と今後の課題について要約すると以下のとおりである。

 

(1)港内防風雪施設の多面的効果評価法の開発

 本研究は、防風雪施設の作業環境改善効果の定量的な評価手法の確立を目的とした研究を行うものであり、本年度は、低温室と野外低温環境下において被験者実験を行い、人体の温冷感覚や温熱的快適感に関するデータ取得を行い、既存温熱指標の低温環境下における適用性を検討し、冬期の作業環境改善効果をより的確に評価できる温熱指標の適用性を評価した。また、温熱環境が作業能力へ及ぼす影響(寒さによる作業能力低下)に関する基礎的な実験を試み、温熱環境と作業能力に関するデータを蓄積し、これらの解析により作業能力と温熱環境に関する定式化に向けての基本的な検討を行った。
 また、今後の課題としては、1) 作業能力に関する被験者実験については、さらに標本数を増すとともに、実際の漁港内での作業形態に近いものも含め、様々な作業形態について被験者実験を行っておく必要がある。2) 実際の防風雪施設の事業計画・実施段階での実用化を考慮し、汎用性が高く利用しやすい形で、この作業能力算定に関わる評価指標、作業能力推定図を整理する必要がある。3) 今後の防風雪施設の効果的・効率的な整備を推進するために、本研究の温熱環境指標に基づく評価手法、寒冷環境下での作業能力低下推定手法に加えて、現時点での防風雪施設の設計に関する技術的知見や、既往施設整備において明らかになった課題や留意事項について、「港内防風雪施設設計の手引き(仮称)」として体系的に整理しておく必要がある。

(2)沿岸、海底構造物への海氷の作用力推定法の提案

 氷海域における構造物の耐氷設計や防氷技術、流氷の有効利用・活用には、重要な入力情報・判断資料となる流氷の移動特性、喫水深、断面形状などの氷象条件を予め把握しておく必要がある。このため、北海道オホーツク沿岸において、IPSやADCPを用いた海氷観測を実施した。観測結果から、流氷の底面は平坦ではなく、数mの凹凸を持つこと、また4mを超える流氷が存在することから、流氷の南限である北海道オホーツク海でも、比較的大きな凹凸をもつ変形海氷が存在することが確認できた。また、紋別沖に常設されている海象計の流氷観測への適用性を検討するため室内模型実験を実施した結果、塩分・空気を含みかつ、ブロック状に堆積した複雑な氷群でも十分に計測できることが分かった。さらに、本実験結果から、距離減衰を考慮し、50m深の海象計センサからの超音波を使用して流氷の底面までの距離測定は充分に可能であることが推論された。最後に、海氷と構造物との力学的相互作用に関する研究の一環として、流氷制御施設(アイスブーム)と流氷群との干渉に関する実験と検討を行った。氷盤群の集積状況や、種々の環境・境界条件などが、アイスブームに作用する氷力へ及ぼす影響などを明らかにした。
 今後の予定としては、IPSとADCPを用いた流氷観測結果については今後も観測を続けるとともに、今年度得られた流氷データの定量分析を行う。海象計の流氷観測への適用性を検討については、現地に設置されている海象計によるデータを解析し、IPSなどで別途計測した海氷喫水深と比較するなど、さらに検討を進めていきたい。最後にアイスブームの実験について、本実験は最も単純である平坦な氷盤模型で実施したが、流氷観測から氷盤は凹凸をもつ場合が多いことから、模型に使用する氷盤群もそれに応じて工夫する必要がある。

(3)津波来襲時に海氷がもたらす作用力推定法の提案

本達成目標にかかる研究は、平成19年度に開始する計画である。

(4)土砂災害時の被害軽減技術の開発

 港湾・漁港周辺海域では、その領域が本来有する水産有用種の生息場・産卵場・幼稚仔の保護育成場としての機能を高めるとともに、静穏な港内を漁獲物の出荷調整や品質保持、放流種苗の初期減耗低下等のための蓄養水面・中間育成水面として高度に利用する必要がある。一方、港湾・漁港内の水域は荒天時でも静穏である反面、外海との海水交換が悪く、陸揚げ時の血水や背後集落からの排水が流入し、水質・底質が悪化しやすい傾向にある。このため、生物の生息条件を満足する高度な水域環境の維持・改善が重要な課題となっている。
 本研究では、北海道の港湾・漁港の高度利用の一環として、周辺海域における生物生産性の向上及び港内水域の環境保全について、立地環境に応じた整備手法を提案するものである。H18年度は、寒冷地における港湾漁港水域を環境諸条件ごとに分類し、各港湾漁港における課題を「藻場造成・磯焼け対策」及び「港内蓄養・中間育成水面の確保」、「港内底質悪化防止・改善」、「水産有用種保護・育成」等に分類し、「人工動揺基質」、「発酵魚かすの添加」、「防波堤背後盛土天端の藻場造成」、「防波堤一体型生け簀の整備」、「流れ藻トラップ」、「港内ナマコ増殖」等の整備・管理方策について、それぞれ現地観測等に基づく検討を行った。
 これらの成果は、港湾・漁港周辺海域の生産性の向上及び港内水環境保全に配慮した各種構造物の整備・管理を行う上で、その計画、設計に寄与するものである。次年度以降は海藻の遷移過程や底生生物の有機物除去能力の定量化等の把握に向けて、各項目を検討する上で必要な調査を実施する予定である。

個別課題の成果

5.1 寒冷地臨海施設の利用環境改善に関する研究

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平18〜平20
担当チーム:寒冷沿岸域チーム
研究担当者:渥美洋一、木岡信治

【要旨】
 積雪寒冷地の冬期における漁港や港湾では、風雪等の厳しい作業環境、さらに高齢化等の要素も加わり過酷な作業環境下にあり、作業効率低下や健康障害、作業の安全性が懸念されている。現在、防風雪施設の整備が行われているが、防風雪施設の有する作業環境改善機能をとってみても、施設整備による作業環境改善効果の定量的な評価手法、費用対効果につながる便益の定量的な評価方法は確立されていなく、これらを踏まえた防風雪施設の計画・設計ツールもまだまだ未整備な段階である。こうした防風雪施設の有する作業環境改善機能の定量的な評価手法を確立するためには、温冷感覚や温熱的快適感(苦痛の程度など)などを的確に数値化できる実体感指標を用いた定量的評価手法と、それに加えて、作業環境改善が作業効率(生産性)に及ぼす影響を定量的に評価する手法の確立が必要と考えられる。また、今後の防風雪施設の地域の実情に的確に対応し効果的・効率的な整備を推進するためには、防風雪施設の有する機能と、それに対応した評価手法、現状での評価ツールや既往整備施設の構造や設計に関わる技術的知見、利用の現状と課題等を体系的に整理しておく必要がある。
 本研究は、防風雪施設の作業環境改善効果の定量的な評価手法の確立を目的とした研究を行うものであり、本年度は、低温室と野外低温環境下において被験者実験を行い、人体の温冷感覚や温熱的快適感に関するデータ取得を行い、既存温熱指標の低温環境下における適用性を検討し、冬期の作業環境改善効果をより的確に評価できる温熱指標の適用性を評価した。また、温熱環境が作業能力へ及ぼす影響(寒さによる作業能力低下)に関する基礎的な実験を試み、温熱環境と作業能力に関するデータを蓄積し、これらの解析により作業能力と温熱環境に関する定式化に向けての基本的な検討を行った。

キーワード:防風雪施設、温冷感覚、実体感指標、作業効率、WCI


5.2 海氷の出現特性と構造物等への作用に関する研究

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:寒冷沿岸域チーム
研究担当者:木岡信治、森昌也

【要旨】
 氷海域における構造物の耐氷設計や防氷技術、流氷の有効利用・活用には、重要な入力情報・判断資料となる流氷の移動特性、喫水深、断面形状などの氷象条件を予め把握しておく必要がある。このため、北海道オホーツク沿岸において、IPSやADCPを用いた海氷観測を実施した。また、オホーツク海に常設されている超音波式波高計(海象計)の流氷観測への適用性を検証することを目的とした基礎的な実験を実施し、その有望性を確認した。さらに、海氷と構造物との力学的相互作用に関する研究の一環として、本年度では流氷制御施設(アイスブーム)と流氷群との干渉に関する模型実験を行い、流氷群の集積状況や施設に及ぼす氷力の履歴・荷重伝達特性を明らかにした。

キーワード:海氷、流氷、超音波、オホーツク海、アイスブーム


5.3 寒冷地港内水域の水産生物生息場機能向上と水環境保全技術の開発

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:水産土木チーム
研究担当者:山本潤、北原繁志、牧田佳巳、佐藤朱美

【要旨】
 全国一の水揚げ量を誇る北海道では、港湾・漁港周辺海域の水産資源の維持・増大や、蓄養・中間育成のための港内水域環境の保全が重要な課題となっている。本研究では、沿岸域における生物生産性の向上と生物の浄化機能を利用した港内水質・底質環境の改善方法を検討し、港湾・漁港周辺海域における水産生物の生息環境について、立地環境に応じた整備手法を提案するものである。H18年度は、寒冷地における港湾漁港水域を環境諸条件ごとに分類し、適正で効率的な整備・管理方策の策定方法の検証を行った。

キーワード:蓄養、底質悪化、ホタテ貝殻礁、藻場、人工動揺基質、栄養塩、発酵魚かす、海水交換