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8.生活における環境リスクを軽減するための技術

研究期間:平成18年度〜22年度
プロジェクトリーダー:材料地盤研究グループ長 脇坂安彦
担当研究グループ:材料地盤研究グループ(リサイクル、土質、地質)、水環境研究グループ(水質)、寒地基礎技術研究グループ(防災地質)

1.研究の必要性

 21世紀は環境の世紀といわれており、環境への配慮をせずに公共事業を遂行することは、不可能である。水や土壌は人間の生活・経済活動に不可欠であるが、それ以前に、あらゆる生態系の基盤であり、その保全には細心の配慮をしていく必要がある。こうした配慮が、公共事業のあらゆる局面で求められている。ところが、ここ数年をみても生活に密着した水環境あるいは地盤環境に関する問題が各地で頻発している。これら水環境、地盤環境の問題に対しては、適切な対応ができるような技術体系・社会的体制を整備しておくことが社会的要請となってきている。

2.研究の範囲と達成目標

 本重点プロジェクト研究では、水環境に関わる問題のうち、水環境にリスクを与える医薬品、病原微生物および環境ホルモン等の存在実態等の解明、測定法・評価法の開発、地盤環境に関わる問題のうち、土壌・地下水汚染および自然由来の汚染の分析法・評価法・対策法の開発を研究の範囲とし、以下の達成目標を設定した。
   (1) 医薬品・病原微生物等の測定手法の開発および存在実態・挙動の解明
   (2) 水質リスク評価および対策技術の開発
   (3) 地盤汚染分析法および評価法の開発
   (4) 地盤汚染対策法の開発

3.個別課題の構成

 本重点プロジェクト研究では、上記の目標を達成するため、以下に示す研究課題を設定した。
   1) 生理活性物質の水環境中での挙動と生態系影響の評価方法に関する研究(平成18〜22年度)
   2) 下水道における生理活性物質の実態把握と制御手法の開発に関する調査(平成18年度〜22年度)
   3) 水環境中における病原性微生物の消長に関する研究(平成16年度〜20年度)
   4) 土壌・地下水汚染の管理・制御技術に関する研究(平成18年度〜22年度)
   5) 自然的原因による重金属汚染の対策技術の開発(1)(平成18年度〜22年度)
   6) 自然的原因による重金属汚染の対策技術の開発(2)(平成18年度〜22年度)

4.研究の成果

 本重点プロジェクト研究の個別課題の平成18年度における成果は、以下の個別論文に示すとおりである。なお、既述の達成目標に関して、成果と今後の課題について要約すると次の通りである。

 

(1)医薬品・病原微生物等の測定手法の開発および存在実態・挙動の解明

 「生理活性物質の水環境中での挙動と生態系影響の評価方法に関する研究」では、2種の抗生物質の分析方法の開発と水環境中での医薬品等の実態把握と挙動解明を行った。まず、数多くの医薬品のうち、薬剤耐性をもつ感染微生物の増加が心配されるなど、医薬品の中でも環境中での存在量・動態に関して注目度が高い抗生物質について調査対象成分の選定方法と分析方法について検討を行った結果、以下の成果を得た。
1) 選定方法の一例として、体外排泄量、毒性、親水性の視点でランキングをまとめたところ、レボフロキサシン、クラリスロマイシンが上位にランキングされた。
2) レボフロキサシン、クラリスロマイシンの分析方法を開発した。二次処理水での検出下限値および定量下限値は、41.4ng/l、138ng/l(LVFX)、43.5ng/l、145ng/lであった。また、二次処理水を用いた添加回収試験の平均回収率は、LVFXでは82%、CAMでは55%であった。
 次に下水処理場の二次処理水中の抗生物質の実態を明らかにすることを目的として、開発した分析方法を用いて二次処理水を対象としたLVFX、CAMの分析を行った結果、LVFXは152〜323ng/l、CAMは303〜567ng/lの濃度範囲で存在することを確認した。
 「下水道における生理活性物質の実態把握と制御手法の開発に関する調査」では、公表されている国内外の研究成果を基に主要な人用医薬品の流入下水と処理水中の濃度についてまとめるとともに、下水処理プロセスにおける解熱鎮痛剤等医薬品の挙動について調査を行い、以下の結果を得た。
1) 流入下水と処理水中の医薬品類濃度に関して、日本における下水中の解熱鎮痛剤は、流入下水中に数百ng/lの濃度レベルで存在し、処理を受けて、50〜200ng/lの濃度で放流されている。抗てんかん剤であるカルバマゼピンは、流入下水中に数百μg/lほどで検出されているが、処理を受けた後においてもその濃度は低下していない。抗生物質については、500ng/lほどの濃度で下水処理場に流入し、処理過程で約50%の除去を受けた後、放流されている。X線造影剤であるイオプロミド(Iopromide)は、海外における調査例でみると他の医薬品類に比べ高い濃度で検出されており、下水処理過程での除去程度も高くはない。
2) 下水処理プロセスにおける解熱鎮痛剤等医薬品の挙動に関して、Ibuprofen、Triclosanは下水処理過程で大きく減少しており、除去率は90%以上であった。Naproxen、Ketoprofen、Diethyltoluamideは概ね50%、Crotamitonは20%の除去率であった。Mefenamic acidは、処理が進むに従い濃度が高くなっていた。Carbamazepineは下水処理過程で大きな濃度変化はなく下水処理によって除去されにくい物質であることが確認された。
 「水環境中における病原性微生物の消長に関する研究」では、環境水中、下水中における薬剤耐性大腸菌の汚染実態や下水処理水中での消長の把握、および薬剤耐性大腸菌株の塩素消毒耐性の評価とともに、これらの株が保有する耐性遺伝子の定性分析を行った。その結果、以下のことが明らかとなった。
1) 流入下水、処理水の大腸菌濃度とABPC、TC、LVFX耐性大腸菌濃度との間には強い相関関係あるいは相関関係がみられたが、河川水ではそのような相関関係は認められなかった。
2) ABPC耐性試験によれば、河川・下水試料中のABPC耐性大腸菌は、複数の薬剤に対して耐性を示す傾向があるため、多剤耐性の割合も増加する。
3) 薬剤感受性から得られた大腸菌を二次処理水に添加し、その耐性変化を調査したところ、日数の経過とともに1剤耐性株は耐性を消失したが、3剤耐性株は耐性を保持していた。
4) 塩素消毒によるCt値を高めることで二次処理水中の多剤耐性株の割合を低下させられる可能性が示唆された。
5) 塩素消毒により3log不活化するために必要なCt値は、0剤耐性大腸菌株を基準とすると6剤耐性大腸菌株では1.1〜1.4倍量必要であった。また、これらの薬剤耐性大腸菌株は、薬剤耐性遺伝子を保有していることが確認された。

(2)水質リスク評価および対策技術の開発

 「生理活性物質の水環境中での挙動と生態系影響の評価方法に関する研究」では、5種の生物を用いたバイオアッセイ手法を用い医薬品が生物に及ぼす影響について検討した結果、以下のことが判明した。
1) 殺菌剤のトリクロサンについては、全ての生物種で毒性影響がみられた。また、同じく殺菌剤のチモールについても多くの生物種で影響が観察された。しかし、抗生物質を除く他の医薬品については細菌や藻類では阻害がみられるものもあったが、他の生物による急性毒性はほとんど確認できなかった。
2) 抗生物質については、藻類やワムシにおいて阻害が確認されたが、他の生物試験では影響がみられなかったことから、急性阻害としては明確な影響がみられないが、生物の増殖に関して影響を及ぼすものと考えられた。以上のように、対象とする医薬品等と試験に用いる生物種の組み合わせによって、物質と生物ごとに影響の違いがみられた。
3) 阻害のみられた濃度は、概ねmg/L単位の比較的高濃度のレベルであり、実際の環境中の濃度においては、影響が小さいとも考えられるが、一部ではμg/Lの濃度で影響が確認されるものもあり、環境中における希釈率等によっては、生態系への影響が生じる可能性も想定される。
 「下水道における生理活性物質の実態把握と制御手法の開発に関する調査」では、下水処理過程でのエストロゲン類除去効率について検討し、以下の成果を得た。
1) 最終沈殿池や返送汚泥系などの、下水処理場の生物処理工程後段におけるエストロゲンの挙動を考察するために、硝化促進型標準活性汚泥法で連続運転した活性汚泥処理装置のエアレーションタンク流出液を用いた無酸素条件下での回分実験を行った。6.5時間の実験期間中に、溶解性遊離体エストロゲン濃度が著しく上昇する現象が観察された。
2) 一方、硝化抑制型擬似嫌気好気活性汚泥法で連続運転した活性汚泥処理装置のエアレーションタンク流出液を用いた嫌気条件下での回分実験においても、6時間の実験期間中に、溶解性遊離体エストロゲン濃度は著しく上昇した。
3) 以上のことから、易分解性有機物が分解された後の溶存酸素が無い無酸素条件または嫌気条件下で、溶解性遊離体エストロゲンが増加する何らかの機構(抱合体エストロゲンの脱抱合、活性汚泥からの脱着・放出、代謝物の還元等)が存在する可能性が考えられた。

(3)地盤汚染分析法および評価法の開発

 「土壌・地下水汚染の管理・制御技術に関する研究」では、自然由来の重金属を含む土壌の簡易分析および公共土木工事で遭遇する地盤汚染の影響予測手法の提示方法の検討を行い次のような成果を得た。まず、自然由来の重金属を含む土壌の簡易分析については、以下の成果が得られた。
1) 自然由来土壌ではヒ素・鉛ともに溶出量と含有量、pHおよび硫酸イオン濃度との相関が明瞭ではなかった。
2) 自然状態で2mm以下の割合が多いほどヒ素の溶出が多くなり、鉛の溶出が少なくなる傾向がある。
3) ヒ素および鉛の簡易溶出方法として土研式簡易前処理法を提案し、その精度および妥当性を評価した。
4) ヒ素の汚染土壌は土研式簡易前処理法と検知管を用いることで、簡易な汚染の判断ができる。
 次に公共土木工事で遭遇する地盤汚染の影響予測手法の提示方法に関しては,提示方法に必要な地盤の物理化学および水理特性の体系化するに当たっての方針として以下のことを明らかにした。
5) 有害物質を含む土砂等の封じ込め空間として、通常の土地利用,土構造物の占有空間の有効活用を想定する必要がある。
6) 封じ込め空間として想定される土地利用形態,土構造物の占用空間の形態ごとに、飛散の可能性,水(地表水,地下水)の侵入可能性,土砂等の流失可能性,溶出可能性,自然減衰特性の適性,再掘削の可能性を示す必要がある。
7) 溶出した有害物質の周辺地盤での吸着特性を評価する手法としてバッチ吸着試験法を確立し,実測データの整備をする必要がある。
8) 供用後のリスク評価を明確にすることによって、応急対策,施工,供用の全過程のなかで生じる他のリスクとの相対化を可能にし、的確なリスクコミュニケーションを行えるようにする必要がある。
 「自然的原因による重金属汚染の対策技術の開発(1)」では、各種の岩石等に含まれる重金属等の溶出特性を適切に評価する方法を検討する目的で、岩石等に含まれる重金属等の化学形態別分析を始めとした各種分析を行った。その結果、以下のことが明らかとなった。
1) 海成堆積物の分析を行ったところ、ふっ素、ほう素、ひ素および鉛の溶出量が大きいものがあり、そのうち、鉛が溶出しやすい形態で含まれていること、砒素はすぐには溶出しにくい状態で含まれていることが示唆された。
2) 長期曝露試験の結果は、重金属元素、硫酸イオンについて曝露後140日前後から降雨量と逆相関が見られ、以後溶出パターンが安定することが示唆された。
 今後、さらに試料数を増やすとともに、化学形態と溶出特性の関係について考察を深める必要がある。
 「自然的原因による重金属汚染の対策技術の開発(2)」では、まず、公定法、および同法と粒径を変えた溶出試験法を、北海道各地の重金属を含有する岩石ズリで実施した。また、異なる粒径での長期溶出について検討するため2mmおよび40mmを最大粒径とする長期溶出試験を実施した。この結果、以下のことが判明した。
1) ひ素、鉛、セレンとも岩種により多少のばらつきはあるが、粒径が大きくなるほど溶出量が減少する傾向が確認された。
2) 長期溶出については、堆積岩類において経過日数60〜80日までに概ね最大溶出量となっていることが判明した。
3) 公定法、最大粒径40mmの溶出量分析および長期溶出量の比較から、溶液が酸性化する火山礫凝灰岩など一部の例外を除き、40mmでの溶出試験が長期溶出を安全側かつ比較的経済的に評価していることを確認した。
4) 以上をもとに、最大粒径を40mmとする40mm溶出試験法(素案)を構築した。

 同法では、酸性化する岩石については別途評価法を検討する必要があるが、今後、合理的な溶出量分析法を構築していくうえで重要な示唆を与えていると考えられる。
  次に北海道における重金属GISマップを更新し、北海道内における重金属を含有する地層について検討した。その結果、北海道内における重金属を含有する地層(全鉱床)では、新第三紀火山岩類で37%、付加体の堆積岩類で22%と多いことが判明した。特に北海道で課題となっているAsでは新第三紀及び第四紀の火山岩類で76%、Pbでは、Pb含むCu/Pb/ Zn 鉱床では新第三紀火山岩類で49%、付加体堆積岩類で24%の割合で含有されていることが判明した。

(4)地盤汚染対策法の開発

 「自然的原因による重金属汚染の対策技術の開発(1)」では、対策技術に関する研究動向を把握する目的で、文献調査を実施した。その結果、土木分野における近年の掘削ずり対策としては、遮水工による管理型処分の事例が多く、中和処理、固化・不溶化処理についても報告があるほか、新規に中和剤、覆土材などが開発されていることがわかった。また、昨年度までの研究成果をもとに、自然由来の岩石による重金属汚染の調査・評価についてのマニュアル(暫定版)を作成した。

個別課題の成果

8.1 生理活性物質の水環境中での挙動と生態系影響の評価方法に関する研究

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:水環境研究グループ(水質)
研究担当者:鈴木穣,小森行也,北村清明,北村友一

【要旨】
 医薬品等の生理活性物質は、環境ホルモン同様、低濃度での水生生物への影響が懸念されており、新たな環境汚染問題となっている。このため、生理活性物質が水環境に与える影響を評価し、発生源や排出源などで効率的なリスク削減対策を講じることが求められている。本研究は、医薬品等の生理活性物質の分析法開発、水環境中での挙動解明、また、水生生態系への影響評価をするため、魚類・両生類・甲殻類・藻類・細菌等を用いたバイオアッセイ手法により医薬品等の評価法の提案を行うことを目的としている。平成18年度は、2種の抗生物質の分析方法の開発と5種の生物を用いたバイオアッセイ手法を用い医薬品が生物に及ぼす影響について検討した。

キーワード:レボフロキサシン、クラリスロマイシン、分析方法、バイオアッセイ


8.2 下水道における生理活性物質の実態把握と制御に関する調査

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:水環境研究グループ(水質)
研究担当者:鈴木穣、小森行也、岡安祐司

【要旨】
 人および動物用医薬品や身体ケア製品起源の化学物質は生理活性作用を有し、低濃度で特異的に作用することから、人や水生生物への影響や薬剤耐性菌の発生が危惧されている。本調査は、ヒト由来のエストロゲン類の下水処理過程における効率的な除去手法の開発と下水道における生理活性物質の存在実態と下水処理過程における挙動を把握することを目的としている。平成18年度は、下水処理過程でのエストロゲン類除去効率について検討した結果、最終沈殿池や返送汚泥系などの下水処理場の生物処理工程後段における酸化還元状態の管理方法が除去効率に大きな影響を与えると考えられた。また、下水道における医薬品、抗生物質の存在実態に関する調査を行った。

キーワード:エストロゲン、17β-エストラジオール、エストロン、医薬品、抗生物質


8.3 水環境中における病原微生物の消長に関する研究

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平18〜平20
担当チ−ム:材料地盤研究グル−プ(リサイクル)
研究担当者:尾?正明、諏訪守、陶山明子

【要旨】
 18年度は、環境水中、下水中における薬剤耐性大腸菌の汚染実態や下水処理水中での消長を把握した。また、薬剤耐性大腸菌の塩素消毒耐性の評価とともに、これらの大腸菌が保有する耐性遺伝子の定性を行った。その結果、流入下水、処理水の大腸菌濃度とABPC、TC、LVFX耐性大腸菌濃度には強い相関関係あるいは相関関係が見られたが、河川水ではその傾向は認められなかった。河川・下水試料中のABPC耐性大腸菌は、複数の薬剤に対して耐性を示す傾向があるため、多剤耐性の割合も増加する。感受性試験から得られた大腸菌を二次処理水に添加し、その耐性変化を調査したが日数の経過とともに1剤耐性株は耐性を消失したが、3剤耐性株は耐性を保持していた。塩素消毒によるCt値を高めることで二次処理水中の多剤耐性大腸菌の割合を低下させられる可能性が示唆された。塩素消毒により3log不活化するために必要なCt値は、0剤耐性大腸菌を基準とすると6剤耐性大腸菌では1.1〜1.4倍量必要であった。また、これらの薬剤耐性大腸菌は、薬剤耐性遺伝子を保有していることが確認された。

キ−ワ−ド:薬剤耐性大腸菌、耐性遺伝子、クリプトスポリジウム、ノロウイルス、リアルタイムPCR法


8.4 土壌・地下水汚染の管理・制御技術に関する研究

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:材料地盤研究グループ(土質)
研究担当者:小橋秀俊、古本一司、桝谷有吾、吉田直人

【要旨】
 本研究は土質材料の環境安全性を評価する技術を確立するとともに、土壌・地下水汚染の環境への影響を把握することを目的として実施するものである。
 本研究では、土質材料の環境安全性を評価する技術については、自然的原因により環境基準を超過する土壌の溶出特性について把握するとともに、建設発生土中のヒ素と鉛が環境基準を超過する可能性を短時間で判定する簡易分析手法について検討した。また、土壌・地下水汚染の環境影響評価として土壌・地下水汚染問題におけるリスクについて整理するとともに、地盤汚染対策を行なう上で考慮すべきポイントを示した。

キーワード:簡易分析、ヒ素、鉛、環境リスク


8.5 自然的原因による重金属汚染の対策技術の開発(1)

研究予算:運営費交付金(道路整備勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:材料地盤研究グループ(地質)
研究担当者:佐々木靖人・浅井健一・品川俊介

【要旨】
 各種の岩石等に含まれる重金属等の溶出特性を適切に評価する方法を検討する目的で、岩石等に含まれる重金属等の化学形態別分析を行った。海成堆積物の化学形態別分析と公定法溶出量試験との比較から、炭酸塩結合態、Fe,Mn酸化物結合態の鉛含有量が多いことが海成堆積物の鉛溶出量が多い一因である可能性が示唆された。一方、砒素については化学形態別分析値と溶出量試験値の間にほとんど相関がなかった。また、土木研究所が考案した装置による長期曝露試験の結果と公定法溶出量試験値の比較から、酸性水を発生させる試料については公定法溶出量試験のみでは汚染リスクを適切に評価できない可能性があることが分かった。さらに、岩石からの重金属等の溶出や酸性水発生対策に関する文献調査を実施し、対策技術開発の基礎資料とした。自然由来の岩石による重金属汚染の調査・評価については昨年度までの研究成果をもとに、マニュアル(暫定版)を作成した。

キーワード:自然的原因、重金属、酸性水、化学形態別分析、長期曝露試験


8.6 自然的原因による重金属汚染の対策技術の開発(2)

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:防災地質チーム
研究担当者:伊東佳彦、日下部祐基、田本修一

【要旨】
 建設工事において遭遇する自然的原因による重金属に対しては、平成15年9月に刊行された「建設工事で遭遇する地盤汚染対応マニュアル(暫定版)」に準拠して評価・対策が実施されている。しかし、同マニュアルは平成15年2月に施行された土壌汚染対策法に準拠しており、同法は本来、自然的原因による岩石ズリ中の有害重金属は対象外としており、より合理的な評価・対策法が求められている。特に北海道では近年、建設工事において有害重金属や酸性水の流出が発生する事例が確認されており、施工上あるいは事業費上の課題となっている。
 本研究ではこのようなことを背景に、合理的な重金属の評価・対策法の技術開発を目的として、汚染リスクの高い地質環境の調査法の提案、汚染リスクの簡易判定手法の開発、および自然的原因による重金属を含む岩石ズリの対策・処理方法の構築などの調査研究を行うものである。平成18年度は、汚染リスクの高い地質環境の調査法の開発の一環として、北海道における重金属の分布状況を重金属GISマップとして取りまとめた。また、汚染リスクの簡易判定手法開発の一環として、粒径分布に応じた重金属溶出量評価法の検討を実施した。

キーワード:掘削ずり、重金属、汚染リスク、溶出試験