土木研究所を知る

  • HOME
  • 研究成果・技術情報
15.寒地河川をフィールドとする環境と共存する流域、河道設計技術の開発

研究期間:平成18年度〜22年度
プロジェクトリーダー:寒地水圏研究グループ長 石田享平
研究担当グループ:寒地水圏研究グループ(寒地河川チーム、水環境チーム、流域負荷抑制ユニット)

1.研究の必要性

 寒冷地域である北海道は年間降水量の半分程度を降雪が占めており、融雪時の流出機構や結氷現象が河川環境に与える影響は大きく、旧川河道が多く残されている等の固有の河川環境を有する。また,北海道は日本の食糧基地であり、他県に類を見ない広大な農地等の土地利用形態も有している。さらに、近年北海道の主要な産業として北海道の自然環境を生かした観光が注目を集めており、自然環境の一端を形成する良好な河川及びその周辺の環境の多様性の確保やそれらの保持、再生と農業の持続的発展との共存が重要な課題となっている。以上を踏まえ、国民の安全と流域の土地利用を踏まえた良好な河川環境創出のための河道設計技術の開発が望まれている。

2.研究の範囲と達成目標

 本重点プロジェクト研究では、治水と環境が並立する流域の河道設計技術を開発するために、寒冷地フィールドを対象範囲とし、以下の達成目標を設定した。
   (1) 治水安全度を向上させつつ河川環境の再生を試みる技術の開発
   (2) 魚類の生活史を通した生息環境における物理環境を定量的に評価する技術開発
   (3) 河川下流域の生態系を支配する塩水遡上の結氷時における挙動が解明
   (4) 大規模農地を中心とする流域から流出する環境負荷抑制技術の確立

3.個別課題の構成

 本重点プロジェクト研究では、上記の目標を達成するため、以下に示す研究課題を設定した。
   (1) 蛇行復元等による多様性に富んだ河川環境の創出と維持の手法の開発(平成18年度〜22年度)
   (2) 冷水性魚類の自然再生産のための良好な河道設計技術の開発(平成18年度〜22年度)
   (3) 結氷時の塩水遡上の現象解明と流量観測手法の開発(平成18年度〜22年度)
   (4) 大規模農地から河川への環境負荷流出抑制技術の開発(平成18年度〜22年度)

 このうち、平成18年度は(1)、(2)、(3)、(4)の4課題を実施している。

4.研究の成果

 本重点プロジェクト研究の個別課題の成果は、以下の個別論文に示すとおりである。なお、「2.研究の範囲と達成目標」に示した達成目標に関して、平成18年度に実施してきた研究と今後の課題について要約すると以下のとおりである。

 

(1)蛇行復元等による多様性に富んだ河川環境の創出と維持の手法開発

 蛇行復元試験区間で低水路満杯程度の流量において、堰の有無による差異は以下のとおりとなる。

a)

河岸浸食については堰有りがやや大きい。堰保護のためにも、部分的に河岸保護を要する。

b)

蛇行部への分水は、堰有りがやや大きい(大規模出水時)。

c)

蛇行部への土砂堆積傾向は、堰無しの方が多く、閉塞の恐れがある(蛇行部河道維持には堰の設置が有効)。


  今後の課題として,以下が挙げられる。

a)

大規模出水時では分岐部水位が高いため、堰の有無による蛇行部への分水の程度に大きな差は見られなかったが、分岐部水位の低い中小洪水(年最大流量程度)規模、平水流量による河道の変化、堆積傾向、合流点の浸食状況を把握する必要がある。

b)

実際の施工を考慮した最終河道線形案による確認を行う必要がある。

(2)冷水性魚類の自然再生産に良好な河道設計技術の開発

 各河川の扇状地上端部付近から山地渓流部にかけて産卵床が分布している特徴があることを明らかにし、集水域(巨視的)スケールにおける産卵床予測評価の可能性を検討、有効性を確認した。また、幼魚が越冬するために生息場を移動する要因として水温が制限要因となっていることを、河川を横断するトラップ調査を連続的に設置して実際に移動している幼魚を捕獲することにより明らかにした。また、有機物の河床堆積について、流下有機物量の粗粒状有機物(CPOM)の変動は季節によって大きく、細粒状有機物(FPOM)の変動は小さいことがわかった。
  今後は、河川工作物等現場への河道設計に反映させていくために、生息環境の保全や改善に関する基礎的な水理実験等を継続して取り組んでいく必要がある。

(3)結氷時の塩水遡上の現象解明と流量観測手法の開発

 常呂川における観測結果から、感潮域の非結氷時で成立する流量推定式は、感潮域の結氷時においても成立する可能性があると分かった。また流量推定式の係数が、結氷時と非結氷時で異なる事が明らかとなった。また、平均流速の挙動および測定時間による差異の検討から、結氷時の感潮域においてADCPの測定時間を長くしても、その観測期間の横断面流量の精度は向上しない。またADCPの測定時間の違いによる平均流速の違いは、小さいという事が分かった。

(4)大規模農地から河川への環境負荷流出抑制技術の開発

 調査対象河川では流下していくに従って、環境負荷物質濃度が増加する「洗い出し型」の河川であることが明確になった。また、調査対象河川流域内にある国営環境保全型かんがい排水事業地区の浄化型排水路および肥培かんがい施設等の整備に伴うフン尿散布状況の変化は、調査対象農家では堆肥のみの散布から堆肥+スラリー、スラリーのみと変化していることがわかった。また、調査対象河川流域内の試験区域において、緩衝帯幅25mで地下水に含まれる硝酸イオンを6〜10割濃度低下させるという結果を得た。そして、草地酪農流域で汎用的に利用可能な水理水質解析モデルを開発した。さらに、調査対象河川が流入する湖では現地調査と数値計算より、洪水時における環境負荷物質が湖に与える影響が大きいことが明確になった。
  今後は調査対象河川・湖において流況や負荷物質のデータを蓄積する。また、農地の施設整備に伴いフン尿の利用形態が変化する農家を対象として、調査対象農家と同様な散布状況の変化が起こるのかどうか検証する必要がある。そして、肥料の種類毎の肥効率を加味した成分別施用量を明らかにするとともに、施肥標準との比較を行う必要がある。また、環境保全型かんがい排水事業実施流域において,経年的に水質・水文調査を実施し,水質低下状況を把握することで当該事業の効果評価に寄与したい。

個別課題の成果

15.1 蛇行復元等による多様性に富んだ河川環境の創出と維持の手法開発

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:寒地河川チーム
研究担当者:渡邊康玄、阿部修也

【要旨】
 流下能力確保のための直線化された河道と流れの多様性確保のための湾曲河道を接続した2way河道を維持管理する場合の課題について,現在進められている標津川の蛇行復元プロジェクトをフィールドとして,現地調査および水理模型実験を実施して明らかにし,その対策手法の開発を行うことを目的としている.現地調査の結果,湾曲と砂州の形成に伴う河岸浸食が顕著に見られるとともに,発達した砂州上にはヤナギが繁茂し,その対策を早急に開発する必要性が確認された.さらに,現地の1/25の移動床侵食性河岸の水理模型実験を実施し,直線河道と湾曲河道の接続個所における浸食堆積規模が接続手法(分流堰の有無)により異なることを把握した.

キーワード:蛇行復元,2way河道,標津川,現地調査,水理模型実験


15.2 冷水性魚類の自然再生産に良好な河道設計技術の開発

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:水環境保全チーム
研究担当者:山下彰司、矢部浩規

【要旨】
 寒冷地を代表する指標生物としてサクラマスを対象とし、その物理的生息環境の評価手法を確立し、寒冷地域生物の生息全体につながる河川環境の創出・復元のための河道設計技術の確立が求められている。本研究では、サクラマスの産卵床について標高データを用いた縦横断地形とから、各河川の扇状地上端部付近から山地渓流部にかけて産卵床が分布している特徴があることを明らかにした。また、餌として重要な水生生物の生息に影響を与える堆積有機物量と河川物理環境との関係について分析した結果、河床材料粒径や浮石度等有機物の捕捉環境とも関係しない区間が確認され、内部生産、分解等の要因が影響している事が考えられた。

キーワード:サクラマス、産卵床、有機物


15.3 結氷時の塩水遡上の現象解明と流量観測手法の開発

研究予算:運営費交付金
研究期間:平18〜平22
担当チーム:寒地河川チーム
研究担当者:渡邊康玄、吉川泰弘


【要旨】
 河川の流量は、流域全体の水資源計画を策定する上で重要な基礎資料である。流量の観測手法を確立するためには、その場所における水理現象を解明する必要がある。結氷時の感潮域においては、結氷時の観測の困難さ、感潮域の複雑な流況のために、水理現象が十分に解明されているとは言い難い状況にある。このため結氷時の感潮域における流量の観測手法は、水理現象を解明した上での手法となっていない。本研究は流量観測手法の開発を念頭に置き、結氷時の感潮域における現地観測を行い、水理現象の解明および流量観測に関する知見を得ることを目指している。得られた知見は以下の2点である。1) 今回の常呂川における観測結果から、感潮域の非結氷時で成立する流量推定式(佐藤、中津川)は、感潮域の結氷時においても成立する可能性があると分かった。また流量推定式の係数が、結氷時と非結氷時で異なる事が明らかとなった。2) 結氷時の感潮域においてADCPの測定時間を長くしても、その観測期間の横断面流量の精度は向上しない。またADCPの測定時間の違いによる平均流速の違いは、小さいという事が分かった。今回の天塩川における検討結果から、非定常流れである結氷時の感潮域においてADCPの測定時間を1測定当り10秒とすれば、ある瞬間の横断面内の平均流速に近づき、その観測期間の横断面流量の精度が向上する事が分かった。

キーワード:結氷河川、感潮域、流量観測、北海道、天塩川、常呂川


15.4 大規模農地から河川への環境負荷流出抑制技術の開発

研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平18〜平22
担当チーム:流域負荷抑制ユニット
研究担当者:山下彰司、山本潤、中山博敏、鵜木啓二


【要旨】
 本研究では特に北海道に特有の広大な農地における農業由来の環境負荷物質を対象として、それが農地を貫流する流域に与える影響を検証し、北海道の土地利用形態に適した環境負荷物質の流出抑制対策の開発を行う。H18年度は調査対象河川の環境負荷物質の発生源の特性及び流出特性と対象河川が流入する湖沼における環境負荷物質の挙動の一端を把握・検証した。

キーワード:大規模農地、濁質、栄養塩類、海水交換、フン尿