光ファイバセンサによる表層崩壊モニタリング技術
1.表層崩壊の特徴とモニタリングの課題
①表層崩壊の特徴
- 崩壊速度が速い
- どこでどのくらいの規模で起きるのかよくわからない
- センサの信頼性(従来のセンサは電気式で、落雷時に電磁誘導が起こり計測できない)
- 崩壊が不特定域で起こるため、面的にモニタリングすることが必要
- 実際の崩壊挙動を計測した事例がなく、危険度の判断および対応方法が不明確
2.光ファイバセンサの概要
2-1.光ファイバセンサの特徴
- 光ファイバ自体がセンサと導線の2つの機能を有しており、線的・面的な設置及び計測が、従来の伸縮計よりも容易に行える。
- 光ファイバの素材はガラスであり、落雷による電磁誘導を受けない。
光ファイバセンサは、現状では表層崩壊モニタリングに最も適した技術です。表-1は、従来型センサと光ファイバ型センサの特徴をそれぞれ示しています。
従来型(電気式) | 光ファイバ型 | |
---|---|---|
点的?面的? | 点的 | 点・線・面的(原理による) |
通信・計測用の結線は? | 量が多く繁雑 1ラインに1個のセンサ |
基本的には1ラインにn個のセンサ 従来型と同様に1:1のものもある |
落雷による電磁誘導は? | 影響を受ける | 影響を受けない |
斜面内部の計測 (水分、傾斜など) |
いろいろなセンサあり、一方式のシステムで可能 | 発展途上 場合によっては複数のシステムが必要 |
コストは? | 比較的安価 ただし、広域の多点計測ではやや割高 |
高価なものから安価なものまで幅がある 計測対象の範囲を考えれば比較的安価に |
一般的に光ファイバは、図-1に示すように、屈折率が異なるコア部とクラッド部の2層構造になっているガラス繊維です。 屈折率の違いによって光が外部に漏れることなくコア部を進行します。光ファイバセンサは、ガラスの屈折率や密度の微小なゆらぎにより発生した散乱光の一部が反射光として後方に戻ってくる後方散乱光や,ファイバ自体に何らかの加工をして反射点などを設けて発生させた反射光等を利用して計測します。光ファイバに曲げやひずみ等が生じると,散乱光や反射光あるいは透過光の波長や光強度などが何らかの変化をするので、この変化状態をひずみや変位等に換算して計測します。計測分野で用いられている主な計測原理としては,B-OTDR方式,OTDR方式,FBG方式,MDM方式,干渉方式,光学ストランド方式(OSMOS)等たくさんの方式があります。
また、計測原理とは別に,計測の形態から「ポイントセンサ(従来の伸縮計と同様)」と「ラインセンサ」の2つに大別されます。「ポイントセンサ」にはFBG方式,MDM方式,干渉方式,光学ストランド方式(OSMOS)等があり、「ラインセンサ」にはB-OTDR方式,OTDR方式等があります。土木研究所では,ポイントセンサの代表としてFBG方式およびMDM方式,ラインセンサの代表としてB-OTDR方式を用いて表層崩壊のモニタリング技術に関する研究を行ってきました。
2-2.光ファイバセンサの設置イメージと適用性
図-2は各計測方式の斜面への設置イメージを示しています。斜面の変状を面的に捉えるために、センサをW字型に配置します。従来型の伸縮計はポイント型センサなので、センサ1つに対して1本の導線が必要となります。この導線が落雷による電磁誘導で焼きつくと、計測ができなくなります。MDM方式は、従来型の伸縮計と同じ構成になりますが、導線自体が光ケーブルとなり、電磁誘導が発生しません。FBG方式は、1本の光ファイバ中にひずみゲージのようなものを作り込むため、1つの導線上に複数のセンサがつながっており、導線の本数を少なくすることができます。BOTDR方式は導線とセンサが一体となっているライン型のセンサで、一筆書きのように設置できます。
光ファイバセンサ導入にあたっての参考となるよう、表―2は各方式のセンサの概算の導入コストを示しています。地盤への設置具および設置人件費は場所によっては異なるものの、計測方式による差違はほとんどありませんので、ここではセンサおよび計測器の材料費の試算をしています。光ファイバセンサは、従来型に対して比較的高価なイメージがありましたが、技術開発が進むことで、計測器自体も安価になってきています。ただし導入にあたっては、導入時の計測計画だけでなく、導入後の計測範囲の拡張や設置箇所の追加を考慮して経済的な計測システムを選定することが重要です。なお、金額については現状(平成19年4月時点)で把握しているコストであり、市場や技術開発の前進によってはさらに安価になる可能性があります。
<試算条件>
- 斜面幅を1箇所あたり100mに固定
- 1辺10cmの正三角形をイメージしてW字型に斜面横断方向に設置
- 監視用ソフト、センサ固定用の冶具等の設置材料費及び設置人件費は除く
型式 | センサ部 | 計測器 | 制御PC | 概算金額 |
---|---|---|---|---|
従来型伸縮計 | 30万円×20台 =600万円/箇所 |
200万円/箇所 | 40万円/箇所 | 約840万円 2カ所目以降+840万円/箇所 |
MDM 方式 |
15万円×20台 =300万円/箇所 |
150万円/箇所 | 40万円/箇所 | 約490万円 2カ所目以降+490万円/箇所 |
FBG 方式 |
30万円×20台 =600万円/箇所 |
300万円 | 40万円 | 約940万円 2カ所目以降+600万円/箇所 |
BOTDR方式 | 1,500円×10m×20区間 =30万円/箇所(20kmまで可) |
1,000万円 | 40万円 | 約1,070万円 2カ所目以降+30万円/箇所 |
表-3は、それぞれの計測方式の特徴を踏まえて、適用性を整理したものです。〇印がついているところは導入にあたり問題がないことを意味し、△印がついているところは検討が必要な項目です。
B-OTDR (ラインセンサ) |
FBG (ポイントセンサ) |
MDM (ポイントセンサ) |
||
---|---|---|---|---|
計測エリア | 広 | 〇 | △1 結線、センサ数 |
△1 結線、センサ数 |
狭 | △2 コスト |
〇 | 〇 | |
変状の程度 | 大 | 〇 | 〇 | 〇 |
小 | 〇 | 〇 | 〇 | |
変状位置 | 〇 | 〇 | 〇 | |
リアルタイム性 | △3 計測時間 |
〇 | 〇 |
※他にも、干渉型やOSMOSなどいろいろな計測方式があるが、それらは点的なセンサで、MDMやFGBの評価に近い。
- △1:ポイントセンサは、基本的に1ライン1個あるいは数個程度のセンサであり、広範囲での計測になると結線量が膨大になるため、導入にあたっては工夫や検討が必要です。
- △2:センサ自体は安価ですが、計測器にコストがかかるため、計測範囲が狭いところでは割高となる可能性があります。導入にあたっては計測の目的を再確認するとともに、計測範囲の拡大の有無など計測計画を考慮することが必要です。
- △3:1ラインの計測には、解析時間を含めておよそ5分から10分かかります。リアルタイム性をどこまで求めるかにもよりますが、斜面計測の分野では問題にならない程度と考えます。
3.斜面管理と表層崩壊予測の考え方
モニタリングを活用した斜面の日常管理と、降雨時の表層崩壊に対する異常監視の考え方は以下の通りです。
①日常計測
斜面の崩壊危険箇所を抽出し、対応策の検討を行います。面的・線的に設置したセンサの累積ひずみ分布棒図(図-3)や、ひずみ軌跡図、ひずみ速度図(図-4)を用いて、変状の卓越している箇所を抽出し、そのひずみ分布形態から危険箇所を推定し、さらに規模や周辺状況を踏まえて必要な対策を検討します。
図-5は土塊の移動方向による危険箇所の抽出について示しています。斜面の崩壊(変状)域がセンサの上方にある場合は圧縮挙動を示し、センサの下方にある場合には引張挙動を示します。ベクトルの向きと反応しているセンサの範囲は、崩壊域のある方向と大きさを示します。
②降雨時の異常監視(崩壊の事前予測)
降雨時の異常監視は、①日常計測で崩壊域を確認した後、崩壊域の推定規模が小さく継続監視で対応する場合、対策工を実施するまでの期間の安全確保目的の場合、または対策が困難な場合などに実施します。
降雨時の斜面の異常監視は、日常計測(災害にならない程度の少量の降雨時を含む)データで得られえるひずみ速度から"管理基準値"を設定し、図-6のように管理円(通常域Aおよび異常域B)を設け、ひずみ速度の向きと大きさから崩壊を予測します。a)のようにひずみ速度が通常域付近で収束する場合は、すぐに崩壊に至ることはありません。b)のように急激な変化が連続し、ひずみ速度が増大したことで崩壊が予想される場合は、周辺の安全を確保する必要があります。(降雨が続いている状況では、早いもので1~2時間以内に崩壊する可能性があります。)
実際に、斜面管理において計測データによる崩壊予測を行う場合には、植物の影響、動物の接触、落石による断線等、色々な挙動が確認されます。そのため、日常的な挙動を踏まえた上で崩壊予測を適切に判断することが重要です。
4.おわりに
研究成果を踏まえて、「光ファイバセンサによる斜面崩壊モニタリングシステムの導入・運用マニュアル」および上記管理の考え方に基づいた「監視用表示ソフトウエア」を作成しました。今後、データの蓄積による予測精度の向上を図っていくことが重要です。さらに、より利用しやすいシステムにするため、斜面における設置性および施工性の向上による人件費の削減など、既存の計測システム全体における様々なコスト低減や、より効率的な計測技術の開発が必要と考えています。