ヒートアイランド現象の再現結果
緑化や水面再生による気温低下の効果を明らかにするため、まず、現状のヒートアイランド現象をシミュレートします。現状のシミュレーションは、1995年8月の晴天日(8月23日21:00〜8月26日5:00)を対象期間としました。東京大手町地点(AMeDAS)では8月22日に降雨が観測されてますが、計算対象期間中は好天で雲が少ない状況でした。
図-1は東京都のAMeDAS地点全てと埼玉県、千葉県、神奈川県の代表的なAMeDAS地点における計算対象期間中の実測気温と計算結果(地上1.5m)を比較したものです。各地点とも気温の絶対値や最高気温の発生時刻、日変動のパターンは概ね良好に再現されているものの、実測値との乖離特性は地点ごとに異なることがわかります。新木場、横浜、船橋は東京湾に近接している地点であり、新木場では計算上の気温変動の振幅や最高気温が実測値よりも小さくなる傾向が見られる一方で、横浜では計算における25日の最高気温が実測値を若干上回っています。計算結果は2kmメッシュの代表気温で、メッシュ内の土地利用分布は考慮していますが位置特性までは計算結果に反映されないのに対して、実測値は測定地点より風上側の土地利用の影響のみを受けます。従って、沿岸域のような土地利用の急変部では測定結果と計算値に違いが表れる可能性をはらんでいます。また、東京西部に位置する府中と青梅における計算結果では最高気温が高めに計算される傾向がみられます。一方、練馬、八王子、浦和、我孫子、越谷では実測値にかなり近い計算結果となっています。東京大手町では、他の地点に比べて夜間の計算結果と実測値の差が大きくなっています。これには人工排熱の推定精度や都市キャノピーの取り扱いの影響、AMeDASデータの代表性など様々な要因が影響していると考えられます。

図-1 AMeDAS地点における計算結果と実測値の比較(8月23日21時〜26日5時)
関東平野を中心とした母領域の地上1.5mにおける気温と地面からの高さ10mにおける風速ベクトルの計算結果例を図-2に示します。母領域の計算結果では、東京都心部を中心とする高温域が終始形成されていることや、午前9時ごろから海風が発達し始め、相模湾からの南風、東京湾からの海風と九十九里海岸からの南東風が確認されました。また、海風の発達・侵入に伴い午後にかけて首都圏沿岸部の高温域が内陸側に移動する様子が再現されました。

8/25 12:00LST 8/26 0:00LST
図-2 母領域の地上気温と風速ベクトル分布の計算結果
ネスト領域における地上1.5mの気温と地上10mの風速ベクトルの計算結果例を図-3に示します。25日の午前8時頃から都心部の高温化が始まり、午前12時には荒川下流部の両岸、東京の下町地域で気温が36℃を超える計算メッシュが出現しています。この時点で、既に北側から都区部の高温域に吹き込む風速ベクトルが確認されます。その後、都区部の高温域が中央線に沿うような形で多摩方面へ拡大するとともに、荒川左岸域における北よりの風も強くなっている様子が伺えます。14時から15時にかけては都心部で気温が低下する傾向が現れ、海風の気圧傾度力が郊外風の気圧傾度力を上回るようになり、北よりの風が東京湾からの海風と合流するような形で西方に侵入していく様子が見られました。17時以降は、高温域が埼玉県の北西部に移動しつつ気温が低下していく状況が計算されています。
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図-3 ネスト領域の地上気温と風速ベクトル分布の計算結果
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