第70回ICHARM R&Dセミナーの開催

 ICHARMでは、水災害分野に関する国内外の専門家を招聘し、最新の研究や知見について講演いただき、参加者の研鑽を深める機会として、「ICHARM R&Dセミナー(ICHARM 研究開発セミナー)」を不定期に開催しています。

 第70回の今回は、信州大学の支援を頂きながら、5月1日に、カリフォルニア大学デービス校土木環境工学部卓越教授のM. Levent Kavvas氏およびカリフォルニア大学デービス校水文学研究室マネージャーの井芹慶彦氏をお招きしました。

 Kavvas卓越教授は、1990年からカリフォルニア大学デービス校土木環境工学科水資源工学教授となられ、現在は卓越教授であるとともにジェラルド・リリアン・オルロブ寄附講座教授、カリフォルニア大学デービス校水文学研究所長、およびカリフォルニア大学デービス校Jアモロチョ水理実験所長でもあります。1991年から1996年においては、日米科学技術協力協定の元で、(当時)建設省土木研究所と地球温暖化影響予測の共同研究を実施し、1995年には水文・水資源学会から国際賞を受賞されています。また、井芹マネージャーはカリフォルニア大学デービス校水文学研究室の責任者であり、専門分野は、様々なスケールで統合された大気-水文プロセスのデータ解析と数値コンピュータモデリングです。

 はじめに、ICHARM小池俊雄センター長がWarmup talkとして、過去10年における我が国の水災害による被害とその対応策、および国内外の特徴的な台風や降雨現象について概説しました。続いて、Kavvas卓越教授および井芹マネージャーからご講演をいただきました。

 気候変動により、世界中の洪水が激甚化する中、従来の極端降水や極端洪水の推定方法が見直されています。“Recent Advances in the Estimation of Extreme Precipitation and Extreme Floods – A Physics-based Perspective”と題された講演では、まず極端洪水推定手法として、1.純粋な統計的手法、2.極端降水の統計解析を入力とした降雨流出解析結果としての極端洪水の推計手法、3.従来の可能最大降水量・可能最大洪水の推定手法、4.大気-水文プロセスの数値モデリングに基づく最大洪水の推定手法 の4つが紹介され、1~3の手法の問題点を指摘し、アメリカ西海岸地域の最大降水量を考えるにあたって、「大気の河川(Atmospheric River: AR)※」による降水量をいかに最大化するかに焦点を当てた、近年の物理ベース手法の研究結果について詳細に紹介されました。最後に、気候変動下における極端洪水の再現期間の推定手法として、GCM水文気候予測のアンサンブルに基づく、極端な洪水の統合大気-水文数値モデルシミュレーションによる予測結果が紹介されました。

※「大気の河川(Atmospheric River: AR)」:大量の水蒸気が帯状の気流となって大気中を輸送される現象のこと。大気の河川が上陸すると、豪雨をもたらすことが多い。

 参加者は、オンライン参加を含めて46名となりました。フロアからは熱心な質問があり、予定していた時間を超過し、最後まで有意義な時間となりました。

 ICHARMでは今後も様々な機会をとらえ、幅広い分野から水災害・リスクマネジメントに関わる知見を広く伝えるべく、セミナーを開催していく予定です。

Kavvas卓越教授  
井芹マネージャー
   Kavvas卓越教授

井芹マネージャー

参加者と集合写真
参加者と集合写真