GRIPSと共催で社会インフラ総合マネジメントに
関するフォーラムを開催

 ICHARMは、政策研究大学院大学(GRIPS)とともに、激甚化する豪雨災害や老朽化の進行に適応した社会インフラのマネジメント方策のあり方に関する研究に取り組んでいます。この一環として、2023年6月15日(木)に両者共同でフォーラムを開催し、大水害と社会インフラ事故の事例を基に今後の流域治水や社会インフラのメンテナンスのあり方を議論しました。フォーラムは鈴木博人教授(GRIPS)の総合司会のもと、GRIPS会議室を会場としてオンラインでも同時配信され、会場から60名、オンラインで136名、合計196名が参加するなど盛況でした。

鈴木教授(GRIPS)による司会と会場の様子
鈴木教授(GRIPS)による司会と会場の様子

 フォーラムの冒頭には、大田弘子学長(GRIPS)および小池俊雄センター長(ICHARM)による主催者挨拶の後、吉岡幹夫技監(国土交通省)および伊勢勝巳副社長(東日本旅客鉄道株式会社)からそれぞれ来賓ご挨拶を頂きました。

大田学長(GRIPS)
による挨拶 小池センター長(ICHARM)による挨拶 大田学長(GRIPS)
による挨拶 小池センター長(ICHARM)による挨拶
 大田学長(GRIPS)
による挨拶 

 小池センター長
(ICHARM)による挨拶 

 吉岡技監(国土交通省)
によるご挨拶 

 伊勢副社長(JR東日本)
によるご挨拶 

 第一部は「インフラ事故をどう乗り越えるか~インフラ事故と求められるメンテナンス~」と題して、睦好宏史埼玉大学名誉教授より基調講演「迫りくる橋の老朽化-イタリア・ポルチェベーラ高架橋落橋事故と妙高大橋の劣化-」を頂きました。ついで、椛木洋子上席技師長(株式会社エイト日本技術開発)がモデレーターとなり、家田仁特別教授(GRIPS)、野澤伸一郎所長(東日本旅客鉄道株式会社構造技術センター)、三木千壽学長(東京都市大学)によるパネルディスカッションが行われました。

 第二部は「気候変動と大水害~パキスタンの大洪水とわが国の流域治水のあり方~」と題して、Khalid Mahmood Malik洪水予報部門長(パキスタン気象局)による「パキスタンの洪水予報システムと2022年洪水」および、Syed Salman Shah局長(パキスタン・シンド州災害管理局、当日はサイクロンに対する緊急対応のため、Syed Sanaullah Shah氏(Risk Assessment Expert)が代理発表)による「パキスタンにおける治水対策」それぞれの基調講演が行われました。

 Malik氏からは、日本の協力によりパキスタンに導入されたレーダーシステムや自動気象観測システムなどの洪水予報システムの紹介の後、気候変動でパキスタンにおける降雨量の多いエリアが西側にずれつつあり、それにより洪水に脆弱なエリアが拡大していることや、ICHARMが導入に協力した洪水予報システム(Indus-IFAS)の予測精度が良好であることなどが報告されました。

 また、Shah氏からは、パキスタンにおける洪水のタイプ(Fluvial or River Floods、Pluvial or Flash Floods、Coastal Floods、Inland or Urban Floods、Glacial Lake Outburst Flood (GLOF))の紹介と、各タイプの洪水に対する各組織の役割(例:Fluvial or River Floodsに対しては、連邦洪水委員会やパキスタン気象局の洪水予報部などが監視を行い、各州の灌漑部局が対策を実施し、地区や州の災害管理局などが緊急対応を実施)が紹介されました。ついで、ICHARM/GRIPSの博士課程学生であるHassan Haren Hote氏から「2010年、2022年のパキスタン洪水における災害リスクガバナンス」の発表が行われました。

Khalid氏(PMD)によるオンライン講演
Hassan氏(ICHARM/GRIPS学生)による講演
Haren氏(ICHARM/GRIPS学生)
による発表
Malik氏(PMD)によるオンライン講演
 

 続いて、鈴木教授(GRIPS)がモデレーターとなり、中北英一教授(京都大学防災研究所)、知花武佳教授(GRIPS)、大原美保教授(東京大学大学院情報学環・学際情報学府)によるパネルディスカッションが行われ、気候変動による影響と流域治水などの対策のあり方や、気象や河川などの情報伝達における課題などが議論されました。中北教授からは、気候変動に伴って降水量と強さが増加しており、その増加量よりさらに河川のピーク流量が増加することが述べられました。また有史以前の火山灰がまだ積もった状態である東日本では、土砂災害対策を今後見直す必要が出てくる可能性があることなどが述べられました。知花教授は、流域治水は「不利益の配分」と言われることがあるが、同時に利益もあるということが重要で、道路や鉄道、河川それぞれの構造物の管理者や住民が広く情報を共有しながら合意形成を行うべきと述べられました。大原教授は、現状様々な情報があふれているが、情報には「行動指南型の情報」と「状況情報」の2種類があり、過去の災害の体験をもとに、毎回の災害においてどのような情報が来るのか備えることが重要であること、そして科学技術に対する社会の寛容性を高めることも大事だと述べられました。

第二部のパネルディスカッション
第二部のパネルディスカッション

 最後に家田特別教授(GRIPS)から閉会挨拶が行われました。

 フォーラム当日は、パキスタン海岸部にサイクロンが襲来したタイミングと重なりましたが、パキスタンからの講演を無事頂くことが出来、共同主催者として深く感謝する次第です。

 ICHARMでは、このようなフォーラム等を通じて得られた知見やネットワークを活かし、分野の垣根を越えて水災害に対し強靱な社会づくりに資する研究開発に取り組んでいきたいと考えています。幅広い皆様のご協力やご提案を頂ければ幸いです。